番外編:諸々の謎

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番外編:諸々の謎

 今回の件について報告書をまとめるように言われた茉白は、これまでのメモや記憶を頼りに、パソコンにかじりついていた。 「茉白様、そろそろ休憩はいかがでしょうか?」  耳に心地よい声がして振り返ると、森章が穏やかに微笑んでいる。 「そうですね。休憩します」 「それでは、あちらで少々お待ちくださいませ」  森章は、そう言って給湯室へ向かった。しかし、すぐにワゴンを引いて戻って来る。  デキる執事は、茉白の様子を見ながら先回りしてお茶の準備をし、良き頃合いに声をかけたのだろう。さすがである。  森章は流れるような手つきでお茶を注ぎ、菓子を用意する。  今日のティータイムに用意されたのは、なんと豆大福である。お茶は、玄米茶だった。 「わぁ! 豆大福だぁ!」 「はい。本日は颯様がいらっしゃらないので、和菓子をご用意させていただきました」 「瀧野瀬さんは、和菓子はダメなんですか?」 「餡子があまり得意ではないようです」 「そうなんですね。私は餡子大好きです! 粒餡もこし餡もどっちも好きです」 「そうおっしゃっていたので、ご用意させていただきました」 「わーい! ありがとうございます!」  デキる執事は、ちょっとした雑談も聞き逃さない。本当にさすがである。  茉白は添えられてる黒文字を手に、大福を一口サイズに切り分け、口に入れた。上品な餡の甘さとほどよい塩味の豆が口内で混ざり、絶妙なハーモニーを奏でる。豆の食感も楽しい。 「おいし~~い!」 「それはようございました」  茉白の顔から笑みが消えない。そして手は止まらない。あっという間に、小皿に乗った豆大福は姿を消してしまった。  美しい緑色をした玄米茶も香ばしくて美味しい。紅茶もいいが、日本茶はより気持ちをリラックスさせてくれる気がする。  今回の件を思い起こすとどうしても気が滅入ってしまうこともあり、この時間が本当にありがたい。森章もそれをわかって、茉白の喜ぶおやつを用意してくれたのだろう。 「茉白様、報告書は本日中とのことですが問題はございませんか? 私にできることでしたら、ご協力させていただきますが」  報告書は、今日中に颯に提出することになっていた。大体はできているのだが、一点わからないことがあったので丁度いい。茉白は遠慮なく森章に尋ねることにした。 「ありがとうございます。もう大体はできてるんですけど、ちょっとわからないことがあって」 「どういったことでしょう?」 「呪いを依頼した人って、その影響はないんでしょうか?」 「影響、ですか」 「呪いを祓われたら、その呪いが相手に返っちゃうとか」  人を呪わば穴二つという言葉もあるくらいだ。依頼した人間にも何らかの影響があるのではないかと思ったのだ。  森章はなるほどと頷き、茉白の問いに答えてくれた。 「祓った呪いは返りません。消滅するだけです」 「そうなんですね。よかった…」 「依頼人は、呪詛師に対価を支払います。大抵は金銭なのですが、今回の相手はおそらくそうではないでしょう。早川という依頼人は、別のものを支払っているはずです」 「それは……」  魂? いや、それは悪魔か。人間がそんなものを貰えるはずもないし、貰ったところでどうしようもないだろう。  では、何か。 「吉祥天音という呪詛師の考えるところは、凡人にはわかりかねます。今回の依頼人に聞くのが一番でしょうが、覚えていないと思われます。故に、不明。金銭の支払いはあったでしょうが、相場よりも低いことが想定されます。相場どおりなら、会社員である彼には到底無理な話ですから」 「一生、払い続けたとしても?」 「無理でしょうね。一介のサラリーマンに払える金額ではございません」 「そうなんですね……。うーん、お金以外に何があるんだろう?」  想像もつかない。 「価値観は人それぞれでございます。私どもの想像の及ばぬところかと」 「それは……ちょっと怖いですね」 「本当に」  早川は、対価として何を支払ったのだろう? 今も生きているのだから、命でないことは確かだ。いや、それも怪しいかもしれない。  もしもその命にとしたら……?  ブルッと震える。あまり考えたくはない。 「それは、私たちではどうすることも……」 「できません。呪いではなく、契約ですので」  つまり、この先早川に何が起ころうとも、茉白たちにはどうすることもできない。 「彼は、何もかも了承した上で依頼をしたはずです」 「ですよね……」  悲しい。悲しすぎる。  それにしても、呪詛師などどうして存在するのか。  きっとそれにも様々な要因があるのだろう。何故犯罪を犯す人間がいるのか、何故人を傷つけて平気でいられる人間が存在するのか、そういったことと似ている気がする。  このままだと気分がどんどん落ちていきそうなので、茉白は頭を勢いよく振り、質問を変えた。
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