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断ろうにも断れないので渋々尻拭いを頑張る。
部室を訪れると、お疲れ様です、と三人が一斉に立ち上がった。
「よせよせ、そういうノリは苦手なんだ。早速本題に入ろうか」
鞄を置きパイプ椅子に座る。三人はカーペットに腰を下ろした。そんで、と私は口を開く。
「恭子がインフルエンザに罹って三日後のテレビの収録に出られなくなった。代役を私が頼まれたわけだが」
はい、とみっちゃんが頷いた。
「恭子先輩から、葵に任せたから頑張って、ってメッセージが届きました」
あの野郎、少しは話を聞きやがれってんだ。出ないぞ、と言いかけた、まさにその時。良かったよね、と三人は顔を見合わせた。そうして私に向き直る。
「私達、恭子先輩に誘われた側なんです」
「こないだあったサークルの飲み会で趣味の話になって、私がギター、えりがベース、さちがドラムを出来るって言ったら恭子さんが聞いていたらしくて」
「翌日、三人纏めてとっ掴まって、これに出るわよっ、ってテレビ番組の募集要項を渡されました」
「もう応募したから、って宣言されて、私とみちこはバイトと被ったからシフトを変更して」
「本番まで一カ月しか無いから急いで練習して、三日に一回はスタジオに入って」
「そこへ恭子さんがインフルエンザに罹ったって聞いたからどうなることかと思いました」
「ね、無駄にならなくて良かったよね」
「折角ここまで来たんだもん」
「よろしくお願いします、葵さんっ」
後輩達に頭を下げられた私の顔は間違いなく引き攣っていると思う。恭子の馬鹿! 後輩達を無理矢理付き合わせて必死で練習させた挙句、バイトのシフト変更まで命じて、そのくせ自分はインフルエンザだと!? 何より腹立たしいのは、この状況で断れるわけ無いじゃんか!
怒りで声が震えないよう気を付けながら、すまない、と頭を下げる。
「恭子の親友として、あいつの蛮行を謝らせてくれ」
いえ、と慌てて手を振ってくれた。
「大変でしたが一曲だけですし」
「バンド活動とか、青春っぽくて楽しかったです」
「しかもテレビに出られるんだしね」
やれやれ、優しい子達だよ。こんなできた後輩をこき使うなんて、次に会ったらあのバカの尻を蹴飛ばしてやる。
「しかし私が代わりに歌うとしてだ。まず、どの曲をやるのか教えてくれんか」
その問いに、これです、とえりがスマホを見せてくれた。
「ご存じですか?」
「知らん。……え、知らん曲を三日後、私はテレビで歌わにゃならんのか?」
気まずい沈黙が降りる。意を決したように、いけますか、とみっちゃんが切り出した。
「……やるしかなかろう」
「ちなみにこれからの予定ですが。明日、スタジオに入って仕上げ。明後日は前日なので各自休養。そして本番を迎えます」
覚えるには今日しかないじゃないか! 課題もあるのに! だが投げ出すわけにもいかない。わかった、と渋々、嫌々ながら、顔に出ないよう細心の注意を払い頷いた。
「葵さん、顔、引き攣っていますよ」
「……これでも頑張って抑えている方なんだ」
よろしくお願いします、と三人がまた頭を下げる。こうなりゃやるしかねぇな!
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