1:千年の命も尽きづき

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 私の名前はコン・ビュウ。白金村の村長補佐をしている九尾の妖怪だ。  この小さな白金村ではみんなが顔見知りであり、名前さえ聞けば家の場所までわかる。イサはペウの右隣に住む、猫又の妖怪である。  妖力によって加速した私の体は、風と一体化しているように思えた。 「近くで暴行事件が起きました! みなさん家から出ずに戸締りをお願いします!」  走りながら、私も声がけをしていく。こんなことは、私が千年生きた中で前代未聞のことである。これ以上被害者を増やさないようにしなければならない。  少し息が切れてきたころに、イサの家付近に到着した。  ガチャ、ガチャガチャ……  私の耳が、金属と金属が触れ合うような音を感じ取った。  サッとその方向を向く。民家のドアを何やらいじっている動物がいる。  しかし、それは妖怪ではないとすぐに気づいた。人間だ。器用なその『手』で鍵穴を探っているようである。 「何をしているのですか」  人間が振り返った。頭から黒い被り物をしており、目と口しか出ていないので、顔がわからない。  人間は無言のまま、鍵穴を探っていた棒をバッグにしまって立ち上がる。棒の代わりに、手には五寸程度の刃物が握られていた。  その刃物は既に使用済みだった。刃の半分くらいまでが血で染まっている。  刃先を私に向けながら、人間は突進を始める。動きはのろい。私は妖怪なので、ひらりとそれをかわす。 「イサさんに何をしたのです」  質問をしても、やはり無言のままだ。 「どうやってこの村に来たのかは知りませんが、あなたをそのまま返すわけにはいきませんよ」  そう、生かしたまま捕まえなければならない。  人間の生身は貧弱なので、生け捕りは難しい。()んだり引っ()いたりすれば、すぐに死んでしまう。  それならば。 「変化(へんげ)」  私は、銀髪で超長髪の人間の姿に変化した。  九尾は色々な姿に化けることができる。人間を捕らえるならば人間の姿の方がやりやすいだろう。  攻撃は、妖術ならばコントロールしやすい。 「(くも)(がく)し」  人間の周りを妖力の煙で覆う。内側から外は見えないものの、外側からは中が見えるものだ。  人間がひるんでいる。捕まえる妖術を発動しようとした、その時。
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