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そして木蓮の心配を他所に睡蓮は淡い桜色に撫子や桔梗が描かれた加賀友禅の振袖で見合いの席に着いた。その姿はたおやかで儚げだった。
「初めまして、和田雅樹です」
「初めまして、叶睡蓮です」
雅樹は清潔感溢れる男性でグレーのスーツを上品に着こなし、緩いパーマの黒髪を程よく纏め襟足を短く刈り上げていた。上背もあり185cmと見栄えも良く胸板も厚かった。大学時代はセーリングサークルに所属していたと言う。
「セーリングですか」
「睡蓮さん、ヨットはご存知ですか」
「はい」
「あれと同じです。帆の表面を流れる風で水面を走る競技です」
「海のスポーツなんですね」
「はい」
「気持ちよさそう、とても楽しそうですね」
「今度睡蓮さんも見に来ませんか」
「はい、ありがとうございます」
男性に免疫のない睡蓮にとって和田雅樹との出会いは衝撃的だと言った。両親としても睡蓮が乗り気ならばこのまま縁談を進めても良いと喜んでいた矢先、仲人から木蓮との見合いを希望する電話が掛かった。
「えっ、私もお見合いに行かなきゃならないの!?」
「先方が是非ともと仰るの」
「クソ雅樹、私たちは陳列棚のケーキじゃないのよ!」
「木蓮、クソはないだろう」
「クソはクソよ!」
そこで驚きの言葉が睡蓮の口から転がり出た。
「木蓮、私の旦那さまにクソなんて言わないで」
これには家族一同驚いた。なんなら家政婦の田上さんも驚いた。睡蓮が生まれて初めて自分の意思を顕にした。
「睡蓮、目を覚まして!」
「だって素敵な人だったのよ」
睡蓮の様子ではどうやら和田雅樹に一目で心を奪われたようだった。
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