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「初めは好きだと思っていたんです」
伊月はナフキンを睡蓮の手に握らせた。睡蓮は溢れて止まらない涙に白い布地を押し当てながら嗚咽を漏らした。周囲は何事かと振り返ったが、伊月はテーブルの上で睡蓮の手のひらを握り静かに相槌を打った。
「でも、雅樹さんが木蓮の事が好きだって、木蓮が良いって、赤い指輪が」
「赤い指輪?」
「雅樹さんが、木蓮の為に作った指輪ーーー私には、私にはお店で、お店で買った、買ったネックレスで、木蓮には、木蓮には」
「羨ましかったの?」
睡蓮は力強く頷いた。
「みんな、みんな木蓮に取られちゃう」
「でも雅樹さんは物ではないんじゃないかな」
「く、くまじゃないんです、分かって、分かっているんです」
ここが誰も居ない場所だったら伊月は睡蓮を抱き締めただろう。目の前で泣きじゃくる睡蓮は出会った時の3歳の女の子となんら変わりは無かった。
「くまじゃ、くまじゃないんです」
双子だからこそ生まれる歪みに25歳の睡蓮は翻弄されていた。
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