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「それで今度は赤い指輪が木蓮さんだけの物だと知って自分が否定された様に感じたのかもしれません」
「それは」
「それも木蓮のせいではありません」
木蓮はプラスティックのコップを握ると一気に飲み干した。
「伊月」
「はい」
「睡蓮は婚約者の事をベージュのくまだと思っていたりする?」
「その可能性はありますね」
「睡蓮はティディベアと結婚するの」
「こればかりは専門医ではないので私にもわかりません」
「どうしたら気付くと思う?」
「睡蓮さんが自分で自覚しない限り難しいと思います。頭ごなしに「それはくまじゃないんだよ」と言っても傷つくだけです」
ピンポーン ピンポーン
<呼吸器内科の伊月先生、外来までお願いします 繰り返します>
「ごめん、呼び出しだ」
「片付けておくわ、あ、伊月」
「なんですか」
「あんた、睡蓮の事が好きなんでしょう。なんとかならないの」
「ーーー力になれればとは思っていますが」
「それは心強いわ」
「じゃあ、また連絡します」
「またね、さんきゅ」
まさかあのティディベアが原因だったとは思いも寄らなかった。「こんな色のティディベアなんか要らなかった!」結納の夜に木蓮に投げ付けられた焦茶のくま、それならば睡蓮の奇行にも合点がゆく。
(睡蓮が自分で気が付かないと)
事の重大さを知った木蓮は雅樹の顔を思い浮かべた。
(あいつの事が好きだ、嫌いだとか言っている場合じゃ無いわね)
やはり雅樹とは縁が無かったのだ。テーブルに肘を突き医王山の山並みを眺めた木蓮の頬に一筋の涙が流れた。
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