談話室

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「睡蓮さん、部屋に閉じ籠るなんてどうしたんですか」  叶家から連絡があった時は単なるお嬢さまの我儘で部屋に籠っているのだろうと軽く考えていた和田雅樹も睡蓮のやつれ具合に驚きを隠せなかった。 (ーーーここまで酷いとは思わなかった)  それは結納の晩からだと聞いた。 (まさか、木蓮と会っていた事に気付いたのか) 「睡蓮さん」 「雅樹さん、名前で呼んで」 「ーーーはい?」 「木蓮みたいに睡蓮って呼んで」  やはり原因は木蓮だった。 「それはちょっと」 「ちょっと、なに」 「恥ずかしくて」 「木蓮は良くて私は駄目なの」  雅樹は大きなため息を吐いた。 「睡蓮さん、あなたはもくれ、木蓮さんとは違うんです」 「どういう意味なの」 「あなたは私の婚約者で、叶さんの大切なお嬢さんです」 「ーーー婚約者」 「はい」  睡蓮は雅樹の腕に(すが)り付いた。 「私は雅樹さんの婚約者なのね!?」 「ーーーそうです」 「結婚出来るのね!」 「婚約者ですから」 「木蓮とは違うのね!」 「木蓮さんは友だちの様なものです」 「そうなの!」 「だから気軽に呼び捨てに出来るんです」 「そうなの!」  睡蓮の表情はみるみる明るいものへと変化したが、雅樹の心の中には暗雲が立ち込め諦めに近い感情が広がって行った。 (ーーー出会い方が悪かったんだ)  和田医療事務機器株式会社は昨年度の決算が奮わず叶製薬株式会社から金銭的援助を受けたと手渡された報告書に記載されていた。これで叶家との縁談を白紙にする事は不可避となった。 (木蓮とは縁が無かったんだ) 「雅樹さん、睡蓮!」 「はい」 「お寿司が届いたわよ、下りてらっしゃいな」 「はーい」  睡蓮は雅樹の冷たい唇に口付けた。 「雅樹さん、お寿司食べて行って!」 「は、はい」  雅樹の笑顔は強張っていた。
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