八重咲の薔薇

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(ーーーーさぁて、なにが入っているのか)  木蓮は手のひら大の小さな包みにカッターナイフを差し込んだ。 (マジ虫とか(ねずみ)の死骸は勘弁してよね)  ところがその箱の中にはもっと厄介な物が入っていた。 810号室の鍵 深紅のヴェネチアンガラスの指輪 携帯電話番号が印刷された名刺 (ーーー雅樹から)  それは結婚式を控えた和田雅樹からのだった。 (ーーーなに、いつでも来いって事なの)  木蓮はそれを箱ごと燃えないゴミの袋に捨てようと立ち上がったがその膝はフローリングの床に崩れた。 (捨てられる訳ないじゃないの!)  部屋を見回した木蓮はクローゼットの上に埃まみれの茶色い箱を見つけた。ドレッサーの椅子を運ぶと背もたれに掴まり背伸びをした。 「おおおおっと!」  椅子の脚が傾き一瞬均衡を崩し掛けたがなんとか持ち堪えた。 「ーーーうっわ、埃くさっ」  ウェットティッシュで表面を拭くとそれは木彫りで臙脂色のビロード張りのオルゴールだった。金具はやや錆びているが少し力を入れれば蓋は簡単に開き、中には小さな鍵が入っていた。 (音は鳴るのかしら)  木蓮はオルゴールを裏返しツマミを巻いてみた。 (ーーー無理か)  ツマミは巻き戻る事は無くうんともすんとも言わなかった。 (これが良いわね)  木蓮は鍵が掛かるこのオルゴールに雅樹からのと自分の想いを閉じ込めた。
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