八重咲の薔薇

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数日後  荘厳なパイプオルガンが奏る静粛な時間。祭壇には白いタキシードを着た雅樹が花嫁を待っていた。 (ーーー雅樹) 「新婦様、お父様のご入場です」  マホガニーの重厚な扉、その光の中には睡蓮が立っていた。白いチュールレースのウェディングベールはシャンパンゴールドのドレスの裾に波打った。ヘッドドレスには水面の様なアクアマリンのスワロフスキーが光を弾き、八重咲の薔薇のウェディングブーケにはシャンパンゴールドのサテンリボンが螺旋を描いた。 (睡蓮、綺麗だわ)  睡蓮はモーニングを着用した父親の肘に手を添え2人で深々とお辞儀をし深紅のバージンロードを静々と歩んで来た。父親は感極まり既に目元が赤く腫れている。参列席には八重咲の白い薔薇と白いサテンリボンが飾られそれは一直線に祭壇の雅樹へと続いていた。   「汝、和田 雅樹(わだまさき)は、この女、叶 睡蓮(かのうすいれん)を妻とし、良き時も悪き時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、妻を思い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」 「誓います」 「汝、叶 睡蓮は、この男、和田 雅樹を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分つまで、愛を誓い、夫を思い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻のもとに、誓いますか?」 「誓います」  結婚指輪の交換が行われ、雅樹は睡蓮の左の薬指にプラチナの指輪をゆっくりと嵌めた。木蓮の頬には真珠の様な涙が溢れ、心中を察した伊月はハンカチを差し出しその右手を優しく握った。 (あの隣に私が居たかった)  重々しい教会の鐘の音が頭上で鳴り響く。雅樹の肘に手を添えた睡蓮が横を通り過ぎる。その頬は桜色に色付き聖堂の外で薔薇の花弁を撒く親戚や友人に微笑み掛けていた。 (ーーー木蓮)  不意に雅樹の視線が木蓮に注がれ時間が止まった様な気がした。 「木蓮」 「あ、ごめん」  伊月は雅樹を睨みつけると木蓮の肩を抱き寄せた。その姿を目の当たりにした雅樹は一瞬驚いた表情をして見せたが会釈をし視線を下に落とした。
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