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暗闇でタクシーのハザードランプが点滅する。
「ありがとう」
12階建のマンションを仰ぎ見る木蓮のショルダーバッグには810号室の鍵が入っていた。正面玄関エントランスで「8、1、0」のボタンを押すと雅樹の声がしてガラス扉が左右に開いた。
(後悔はない)
エレベーターホールに立つ木蓮の脚は震えていた。
街灯の灯りの下でタクシーのハザードランプが点滅する。
「ありがとうございました」
山茶花の垣根を折れると5階建のマンションが小高い丘の上に建っていた。睡蓮の手には一泊分の旅行鞄、505号室のカーテンは開き逆光の中で伊月が睡蓮を待っていた。「5、0、5」のボタンを押すとガラスの扉が左右に開いた。
(後悔はしない)
エレベーターホールに立つ睡蓮はその箱の中に足を踏み入れた。
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