上弦の月 下弦の月

4/4
前へ
/101ページ
次へ
 暗闇でタクシーのハザードランプが点滅する。 「ありがとう」  12階建のマンションを仰ぎ見る木蓮のショルダーバッグには810号室の鍵が入っていた。正面玄関エントランスで「8、1、0」のボタンを押すと雅樹の声がしてガラス扉が左右に開いた。 (後悔はない)  エレベーターホールに立つ木蓮の脚は震えていた。  街灯の灯りの下でタクシーのハザードランプが点滅する。 「ありがとうございました」  山茶花の垣根を折れると5階建のマンションが小高い丘の上に建っていた。睡蓮の手には一泊分の旅行鞄、505号室のカーテンは開き逆光の中で伊月が睡蓮を待っていた。「5、0、5」のボタンを押すとガラスの扉が左右に開いた。 (後悔はしない)  エレベーターホールに立つ睡蓮はその箱の中に足を踏み入れた。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!

795人が本棚に入れています
本棚に追加