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睡蓮は出勤する伊月の車に同乗し金沢大学病院を受診した。
ピンポーン 「115番の方6番診察室までお入り下さい」
睡蓮の足は震えていた。伊月の書いた紹介状は女医の手に渡った。
「えーー、叶 睡蓮 さん」
「はい」
「呼吸器内科の田上医師からの紹介状を頂きました、産科婦人科の元町です。以降担当させて頂きます」
生まれて初めて座る産科婦人科の椅子には程よい硬さのドーナツ型クッションが置かれていた。
「よろしくお願い致します」
「はい、よろしくお願い致します」
ベリーショートヘアの溌剌とした雰囲気は木蓮を連想させた。
「今回はどうされましたか」
「難病性気管支喘息患者の妊娠出産についてです」
「叶さんも、あぁ、そうですね」
「はい」
元町はパソコンモニターの前でマウスをクリックした。程なくして睡蓮の通院履歴と病状、処方箋の一覧が表示された。
「通院歴はーーー長いですね」
「大丈夫でしょうか」
「発作も頻繁に起きていますね」
「はい」
規則的にリズムを刻む機械音、白い壁、行き交う看護師、医師の白衣。睡蓮にとって見慣れたはずの光景が全く違って見えた。
「そうですか」
「内診致します。専用の下着を履いてお掛け下さい」
「はい」
壁一枚隔てた隣の診察室からは胎児が順調に育っていると診断され安堵する妊婦の声が聞こえて来た。背後に感じていた待合室の音が消えた。
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