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第14話 騎士団と事件
「お、あんたがレーアか」
振り返った一人が、ぱっと顔を輝かせる。
金色の髪に緑色の瞳。第一印象からとても華のある男性だと思った。
3人は同じデザインの服を着ている。それぞれ着こなしは違うが、制服というものだろうか。
「騎士団特殊部隊の3人だよ」
「騎士団…?」
「そう。魔法省が担当する事件のサポートをしてくれるんだ。んー、魔法使いと人間の橋渡し役って感じ。任務で一緒になることが多いから、会わせたかったんだよね」
「初めまして、レーアです」
ぺこりと頭を下げる。
「よろしくな。俺はルイス。特殊部隊の隊長をしている。何か困ったらすぐ相談してくれ」
先ほどの人が白い手袋をはめた大きな手を差し出してくる。
その手を握り返すと、ぎゅっと力を込めて握り返された。
人好きのする明るい笑顔。にっと笑った口元から白い歯が見える。
なんだか、フランツさんと気が合いそう。
「はい、よろしくお願いします」
「ブレンだ」
進み出た男性はルイスさんとは対照的だった。
黒に近い茶色の髪に濃く青い瞳。無表情で握手もしてもらえなかった。ただ真っ直ぐに私の目を見る。
「もっと愛想よくしろよ、ブレン」
「充分だ」
ルイスさんに言われても、ふいと視線を外して終わりだった。
「よろしくお願いします」
2人は20代半ばくらいだろうか。背が高く背筋がしゃんとして騎士様という感じ。全然タイプが違うけどどちらも頼りがいのある印象だ。
「気にしないでね、ブレンさんはいつもこうだから」
苦笑いしながら最後に挨拶してくれたのは女性だった。
「私はハンナ。ねえレーア。あ、レーアって呼んでもいい?」
「は、はい」
彼女のピンク色の長い髪は高い位置で一つに結ばれている。明るい緑色の大きな瞳がキラキラとして、とても綺麗だ。
「嬉しい、ありがとう。あのね、私もここの5階に住んでいるの。所属は騎士団なんだけど特別にね。騎士団の寮には女性部屋がないから」
「そうなんですか」
「そうなの。だから仲良くしてね」
「はい、よろしくお願いします」
「敬語じゃなくてもいいわよ。多分そんなに年も変わらないだろうし」
「は…うん。じゃあ、ハンナって呼んでもいい…?」
「もちろん! ああ、嬉しい。今までずっと男の人とばっかり仕事してたから。まあ騎士団なんだからしょうがないと言えばそうなんだけど…」
「ハンナ」
「何ですか、ブレンさん。ブレンさんが喋らないから私が代わりに喋ってるんです」
「…」
「あはははは! 騒がしくてすまないな、うちはいつもこうなんだ」
「ふふ」
ルイスさんの明るい笑い声に、つられて笑ってしまう。
3人はとても仲がいいと思った。ブレンさんは嫌そうな顔をしているけど、不機嫌には見えなかった。
「さーて、ではそろそろ仕事の話をしようか」
ルイスさんの一言で、2人の表情が引き締まる。
「そうだね。レーアもおいで」
「はい」
にこにこと挨拶の様子を見守っていたフランツさんに招かれ、隣に座った。
「レーアの村で生け捕りにしたオクリイヌと、瘴気の泉を今調べてるんだけどね。やっぱり以前から報告のあったものと凄く似てる」
「やはりそうか」
「うん、同一犯で間違いないんじゃないかな」
「それにしては大陸中に点在しているな」
「うーん、それなんだよね」
「そんなに沢山…?」
「うん」
私の言葉にフランツさんがぱちんと指を鳴らす。
次の瞬間、テーブルの上に大陸地図が開かれた。
「レーアもいるし、おさらいしよう」
言って、フランツさんは地図の一点を指さす。
「まずはここ、オルテシア共和国の町の泉が瘴気に汚された」
オルテシア共和国は大陸の西端にある小さな国だ。周辺の町や村が集まって国になったと本で読んだことがある。
「町中だから被害は大きかったんだよね。あのあたりの町はみーんな、その泉から水を引いているから」
「そんな…」
「ああ、大丈夫。誰も飲んでないよ。レーアも見た通り色が明らかに悪いし匂いもきついからね」
「すぐに魔法省が対処して泉は浄化されたんだが、いつ誰がやったかは分かっていない。怪しい人物の目撃情報もない」
「というか、誰でもできる、が正解かな」
「どういうことですか?」
「住民の憩いの場なんだよ。だから昼も夜も人がいる。いつでも誰でもできちゃう」
「なるほど…」
フランツさんはこんな話の時でも、どこか楽しそうだ。
「次はここ、ドルア山脈の麓にある村。ここは村共有の井戸が汚された」
ドルア山脈は大陸の北側を東西に走る。ルイスさんが指さしたのはその南側の中央あたりだ。
「気づいた住民が都に連絡をくれて、すぐに浄化に行ったからそんなに被害は出てないよ」
フランツさんの言葉にほっとしたのもつかの間、ルイスさんの声が低くなった。
「だが次からがひどかった」
その長い指が差したのは、南端の都と中央を分ける森の辺りだ。
「フルス川の上流が汚染され、この森の動物に被害が出た。下流の村の住人が川の汚染を訴えた時には、上流の森の中は動物の死骸が転がっていた」
「その次は東側、ここも森の中の川が汚されて魔法生物に被害が出たね。赤目になって暴走して、近くの町で暴れちゃったんだ。幸い人間は怪我だけで済んだけど、魔法生物は皆狂って死んじゃった」
「半分以上お前が仕留めたって聞いたぞ」
呆れたようにルイスさんが息を吐く。フランツさんはさも当然の顔で頷いた。
「うん、だってもう嫌だって言ってたから。助ける方法も今は分からないし」
「はあ…」
「レーアに会ったのは、その帰り道だよ」
確かに、その町は私の村から二つ山を越えた先にある。
では、フランツさんとフィデリオさんは立て続けにその事件の調査をしたということだ。
「集中して2件、同じ犯行がされたのは東側が初めてだ。念のため、騎士団の別の隊が東側の各地を警戒している」
「そうですか」
答えて、少し迷う。
話を聞きながら、不思議に思っていたことがある。
それを、聞いてみてもいいだろうか。
「なあに、レーア?」
「あ、えっと…」
フランツさんが顔を覗き込んでくる。エメラルドグリーンの目が興味津々に大きく開かれている。
「なにか考えてるでしょ? そんな顔してるー」
「その、不思議に思ったことがあって…」
私は思い切って、思ったことを言ってみた。
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