第1章 自分の可能性

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第4話 彼女と私の違い 魔法使いのお二人は、今夜村長の家に泊まっていくことになった。 狼の魔法生物を小さくして箱に封印し、持ち帰って調べると言っていた。 とにかく、今夜は安全だからと魔法使いさんに言われ、みんな安心して家に帰って行った。 私はベッドに潜り込んでからも、まったく眠気が訪れなかった。 興奮している、と自分で分かる。 一晩に3人も魔法使いと会うなんて。 こんなことは今まで無かった。 親友の魔女がこの村にいた時も、他の魔法使いに会ったのは1度だけだ。 それなのに。 不謹慎だと分かっている。父に申し訳ない気持ちにもなる。 必死に守ってくれた父の喪に服し、慎ましく穏やかな気持ちで居るべきだ。 分かっているけれど。 何かが始まるのでは、という期待が胸を膨らませる。 このワクワクした気持ちは、無視をするにはあまりに明確だった。 次の日、村長から呼ばれ家に行くと、昨日の魔法使いさんが一緒にお茶を飲んでいた。 同席するように勧められ、大人しく輪に加わる。 「改めてよろしく、レーア。俺はフランツ」 暗めの赤毛を1つに小さく結んだ、エメラルドグリーンの瞳の魔法使いはそう名乗った。 「よろしくお願いしま…っ!」 差し出された手を握ると、ぶんぶんと振り回される。 「ちょっと、フランツ!」 「あはは、レーア、目がおっきくなった。おもしろーい」 横から黒髪黒目の魔法使いが止めに入って、 「俺はフィデリオだ」 と、私の手をフランツさんから奪い取るように握ってくれる。 「よろしくお願いします」 「すまないな、俺の師匠は自由人なんだ」 フィデリオさんは眉尻を下げて、苦笑いする。 「そ、その様ですね」 挨拶を終えたフランツさんは、寝そべるように浮かびながら器用にお茶を飲んでいた。 「レーア、座りなさい」 村長に促され、空いている椅子にかける。 フィデリオさんも私の隣に座った。 「実はね、魔法使いさん達が今回の件について、調査をしてくれると言うんだよ」 「あんな獣が現れたのでは村の皆も不安だろう。俺たちで力になれるのならそうさせてくれ。一宿一飯の恩だ」 真面目にそう言っているのが伝わってくる。フィデリオさんは誠実な魔法使いらしい。 「オクリイヌのことも興味あるしね。早めに調べておいた方が良さそうだよ」 「そうですか。ありがとうございます。よろしくお願いします」 「そこでね、レーア。君にも同行してほしいとのことだ」 「え、同行、ですか?」 わざわざ村長の家に呼ばれたのだから何かあるとは思っていたが、まさか一緒に調査に行けということか。 「身の安全は保証する。フランツはこう見えて、かなり強い。俺はまだまだ未熟だが、剣も使えるし、しっかり休ませてもらったからな、体力も魔力もかなり回復している」 「フィデリオはあんまり魔法使わなくていいよ」 「なんでだよ」 「まだ土地の精霊と馴染めてないから」 「あ、ああ…そうか」 しゅんと肩を落とし、フィデリオさんは小さくなってしまった。 「だから、剣の方で活躍してね」 「…っ! ああ、任せろ!」 かと思ったら、瞳を輝かせる。 何だか犬みたい。 「調査は森の方に行くそうだ。レーアは薬草を摘みによく森へ行っていたから詳しいだろう。道案内をお願いできるかね」 なるほど。それで私が呼ばれたのか。 確かに、小さい頃から父さんと一緒によく森へ入っていたし、他の人よりは詳しいと思う。 だけど、あんな危険な獣がいるかも知れないと思うと…。 でも。うん。 「分かりました。同行させていただきます」 そうして私たちは、調査のために森へ出発した。 フランツさんとフィデリオさんは木を見上げたり、花を観察しながらゆっくりと歩いている。 もっと早く奥へ行った方がいいのではと、私は気が焦って仕方なかった。このままでは日が暮れてしまう。夜の森は入ったことがないから、不安だった。 もちろん昨日の魔法を見て、2人が頼りになるとは分かっているけれど。 「あの、もう少し急ぎませんか? 日が暮れてしまいます」 控えめに進言してみると、フィデリオさんが苦笑いをした。 「ああ、そうか。俺たちがただ森を楽しんでいるようにしか見えないよな」 「俺は楽しんでるよ」 「フランツは黙ってろ。人間だったことがないやつにこの感覚は分からない」 「あはは、はーい」 「え、えっと…」 気になることが多すぎて、どれから聞いたらいいのかわからない。 「俺たちは精霊に話しかけているんだ」 「精霊?」 「ああ。魔法はイメージと感情、そして精霊の力を借りて使う。だから、この地の精霊と仲良くなっていないと上手く魔法が使えないことがある」 「へえ。魔法使いだからって、何処でも何でも出来るわけじゃ無いんですね」 私には見えないものが、この人たちには見えているということか。やっぱり魔法って、選ばれた人しか使えないものなんだ。 あれ? じゃあ… 「あの、質問しても良いですか?」 「どうぞ」 「この村に少し前まで魔女が居たんですけど、彼女は精霊のことは何も知らない様子でした。そういった場合はどうなんでしょう?」 「その魔女はこの村出身か?」 「はい、私の親友です。ずっと一緒に遊んでました」 「それなら、精霊の方が一方的にその魔女に手を貸していたんだろう。自然を大切にし、自然と共に生きていれば、おかしなことじゃ無いと思う。そうだよな、フランツ」 「うん、そうだね」 「そうなんですか…」 見えてないのに魔法が使える親友。ずっと一緒にいたのに魔法が使えない私。 私は気に入ってもらえなかったってこと? 何か私が悪いことをしたのかな? 「レーア、どうした? 浮かない顔だな」 「ああ、いえ。何でもありません」 いけない、気を引き締めないと。 今はそんなこと考えてる場合じゃない。 「えっと、さっきフィデリオさん言いましたよね。フランツさんは人間だったことがないって。フィデリオさんは違うんですか?」 空気を変えようと、わざと明るい声を出す。 フィデリオさんは気づいただろうけど、微笑んで頷いてくれた。 「ああ、魔法使いは生まれつき魔法が使える者が多いが、稀に後天的に使えるようになる者がいるんだ。俺は魔法に目覚めて3年くらいだな」 「へえ。そんな人もいるんですね」 良いなあ。でも、私には無理だよね。いくら憧れがあるからって、誰でもなれるわけ… 「フランツはこの見た目で1000年以上魔法使いをやってる」 「せんねん!?」 「あはは、良い反応ー。レーアおもしろーい」 明るく笑うフランツさんは、どう頑張っても20代前半くらいにしか見えない。 「魔法使いは、魔力が成熟した時に外見の成長が止まるんだ。こんなやつだが俺の師匠だ」 「えっへん」 「ふふ、そうなんですね」 フィデリオさんは私とそれほど歳が離れていないように見える。魔法に目覚めて、こんなに仲の良い師匠に教えてもらって。そんなことが、私にもあれば… 「何これー?」 フランツさんが木の根元に咲いている花に近寄る。 「メザメ草ですね。煎じて飲める花で、滋養があって目覚ましの効能があります。あれ? でもこの季節に咲く花じゃ無いはず…」 「ふーん、なるほどねー」
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