第3章 自分の意思

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第5話 意地悪 「わあ!」 その日から祭りが始まった。 街には昨日以上に屋台が並び、大通りのあちこちでショーが行われる。 2日目の最終日が誕生日当日で、昼はカトリーナさんとデレックさんのパレードが行われ、夜には屋敷を開放して、誕生日パーティーが開かれる予定だ。 私たちは軽めの朝食を済ませて街へやってきた。 街の子供たちに加え、祭り目当ての観光客もいて、昨日以上に賑やかな様子だ。 風船を配る男性に子供たちが集まり、バイオリンの音色に耳を傾ける女性、地元料理の屋台に舌鼓を打つ男性と、皆んな思い思いに祭りを楽しんでいる。 目に映る全てがキラキラとして、私は高揚感を抑えられる自信がなかった。 「あ、あっちで面白そうなことやってる! 俺見てくるー!」 フランツさんが自由に宙を飛んでいく。 「あ、フランツさん!」 「放っておけば良い。レーア、気になるものがあれば遠慮なく言うんだぞ」 「はい!」 そうしてフィデリオさんと通りを歩き始めた。 あちこちで美味しそうな匂いがして、楽しそうな音が聞こえて、シャボン玉や紙吹雪がキラキラと舞って。 その空間にいるだけで私は幸せだった。 「あれはなんでしょう?」 私の目に止まったのは人だかりだ。 皆んなソワソワと落ち着かない様子で何かを待っている。 ウキウキ期待している気配を感じ、私たちもそこで立ち止まった。 「劇団のショーらしいな。普段劇場の中でやってるショーが見られるみたいだ」 前方に案内板か何かあるのだろう、背の高いフィデリオさんが教えてくれた。 「わあ! 見てみたいです!」 「ああ、少し前に行こう」 人混みを縫って前方へ移動する。 「見えるか?」 「えっと…はい」 人混みの頭の間から少しだけステージが見えた。ここからでも何とか見えるだろう。 そうしている間に、華やかな音楽がかかり劇団員がステージに入ってくる。 色とりどりのドレスやスーツを着た人たちが、音楽に合わせて華麗に踊る。 翻るドレスの裾に私は心を奪われた。 周りの人たちが音楽に合わせて手拍子を始める。 私もそれに合わせてリズムを刻んだ。 「わー! すごいすごーい!」 すると、頭上から聞き慣れた声が聞こえてくる。 見上げるとそこにフランツさんがいた。 彼は宙に浮いたまま足を組んで座り、拍手を送っている。 あそこからなら眺めもいいだろう。 視界を遮るものもなく、あんな風に自由に体を揺らしてショーを楽しめる。 だが気づくと彼だけではなかった。 空を飛んでショーを楽しんだり、空から紙吹雪を撒いている魔法使いがたくさんいた。 子供も何人かいたが、彼らはきっと自分の魔法ではなく、魔法使いにお願いしてそこにいるのではないだろうか。 正直、すごく羨ましかった。 私も空を飛べたらいいのにと切実に思った。 だけど周りの人間もみんな我慢している。 魔法使いじゃない私には、その願いを叶える術はないのだと諦めるしかない。 気持ちを切り替えショーに集中することにして、視線をステージに戻す。 音楽が変わり、しっとりと歌い上げるボーカルの声に合わせて美しいダンスが披露された。 男女が手を取って、華麗に踊る。 その身体の動きひとつひとつにこの上ない繊細さと美しさが表現されて、目が離せなくなった。 そうして5曲披露されたショーは割れんばかりの拍手の元、幕を閉じた。 私は放心状態で、しばらく動けなかった。 「大丈夫か、レーア?」 「はい…凄いものを見てしまいました…」 「あはは! それは良かったな」 「あ、すみませんフィデリオさん! 付き合わせてしまって!」 「いや、俺も見たかったし、楽しかったよ」 「でも、他の魔法使いみたいに上から見れたんじゃ…」 「ああ、まあそれもいいが。俺は背が高いから問題なく見えるし、ここからだと一体感があって好きなんだ」 「なるほど、確かにそうですね!」 みんなで手拍子をして、歓声を送って。確かに、一体感があって楽しかった。 「レーア、フィデリオ!」 頭上からフランツさんの声が降ってくる。 「楽しかったねー!」 「はい、とっても!」 「特にあれ! くるんくるんってバク転しまくってたやつ! 人間なのにすごーいってなった!」 「確かに、あれも凄かったです!」 ちょうど目の前の人が興奮して両腕を上げたので、ほとんど見えなかったものだ。 上から見ていたフランツさんなら、ステージ全体が見渡せてそれは楽しかっただろう。 「叫んだら喉乾いたな。何か買おうか、レーア」 「はい!」 フルーツジュースの屋台が近くにあったのでそこでジュースを買うと、ちょうど近くのベンチが空いて3人でそこで休憩することにした。 「フランツさん、上から見るのってどんな感じでした?」 私は羨ましかったのと好奇心とで、マンゴージュースを煽るように飲んでいる彼に話を振ってみた。 「凄くよく見えた! 次の出番を待ってる人も見えて、緊張感とか高揚感とか、そういうのも伝わってきて楽しかったよ!」 「そっかぁ。いいなぁ」 と、思わず口をついて漏れる。 「え? レーア、上から見たかったの?」 「あ、えっと…」 フランツさんは本当に驚いた顔をしている。 フィデリオさんは何か言いたげに私を見るが、じっと私の言葉を待ってくれた。 「その…正直羨ましいなとは思いました。私は背が低いから、フィデリオさんみたいに見えなくて…」 「えー、言ってよー! そしたら一緒に見れたのにー!」 口を尖らせ足を投げ出す。 本当に拗ねているみたいで、私は慌てた。 「ご、ごめんなさい…!」 「レーア」 すると反対側から、優しくも少しだけ厳しい声がした。 「俺たちがそんなに意地悪に見えてるのか?」 「え…?」 思ってもみなかった言葉に、一瞬意味が分からなくなる。 「断るわけがないだろ、そんなこと。実際、子供たちはねだっていたぞ」 「そ、そうですけど…」 「朝は出来たのにー、変なのー!」 言葉とは裏腹に、フランツさんもフィデリオさんも楽しそうに、どこか優しく笑っている。 その顔を見ていると、不思議と心が軽やかな風になった。 「楽しかったから、次はレーアも上から見ようよ!」 「はい、是非!」 素直に頷いた私の心には、さっきまでの重く暗いものが嘘のように無くなっていた。 まるで、魔法みたい
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