第3章 自分の意思

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第7話 プレゼント 「レーアさん」 フランツさんとのダンスで少し酔ってしまった私は、バルコニーで風に当たっていた。 そこに、柔らかく微笑むカトリーナさんがやってきた。 「カトリーナさん! お誕生日おめでとうございます」 同じ屋敷の中で目覚めたというのに、今日は朝からカトリーナさんに会えていなかった。 彼女は早朝から準備に忙しく、私も街へ出掛けていたから。 「ありがとうございます。あの、少しお話ししても?」 「もちろんです!」 カトリーナさんは私の横に並び、視線を延ばす。 彼女の瞳には、美しく可愛らしい街並みが映る。 日が暮れて星が輝き、家には明かりが灯り、柔らかく温かな光が。 「先日は失礼いたしました」 「え?」 なにか、失礼なことをされただろうか? 「初対面の方にあんなに取り乱した姿を見せて。今から思えば何故あんなことをしてしまったのかと、自分が恥ずかしいですわ」 「そ、そんなこと…」 「言い訳になってしまいますけれど、嬉しかったのです」 彼女は微笑みを崩さない。 振り向き、会場で楽しそうにしている街の人たちや窓辺で談笑するデレックさんを見る、その時も。 「街の方々はとても優しくて、温かな方ばかりです。こんな私を領主の娘として受け入れてくれて…。だけど、その…少し寂しくて…」 「寂しい?」 「幼い頃は、近所の子供たちと当たり前のように遊んでいて。でもこの屋敷に引き取られてからは、そんなこともなくなって。皆さんに大切にしていただいているけれど、私を、ただのカトリーナとして接してくれる人はいなくなってしまって…」 私を見る。その笑みが、一層深く柔らかくなる。 「だから、嬉しかったのです。レーアさんが、私自身に話しかけてくれて。だから、あんな甘えたことを…」 「そ、そんな。私も嬉しかったです。少しでもカトリーナさんの力になれているなら」 「ありがとうレーアさん」 彼女が私の手を取る。 レースの手袋越しでも、その温かさは伝わった。 「レーアさん、どうかお友達になって下さらないかしら。もう甘えたことは申しません。だけど、その…レーアさんといると勇気が持てる気がして…」 「ダメです」 「え…」 「甘えてくれなきゃダメです。友達になるのなら、カトリーナさんとして、私と接してください。自分の気持ちを隠したまま友達って言われても嬉しくないです。繊細で優しくて、少し気弱なそのままのカトリーナさんとして、私と友達になってください」 パッと花が咲いたように紺碧の瞳が見開かれる。 みるみるそれは潤んでいき、大粒の涙がこぼれ落ちる。 「レーアさん…ありがとう…」 その声は喜びに震えていた。 「カトリーナ、どうしたんだい?」 その時、デレックさんが振り向いて慌ててバルコニーへ出てくる。 「そんなに泣いて、なにか辛いことがあったのかい?」 心配そうに彼女の肩に手を置いて、泣き顔を覗き込む。 「いいえ、いいえお父様。とても素晴らしい誕生日プレゼントをいただいたのです」 私は自分でも驚いていた。 あんなふうにカトリーナさんに言い返すなんて、今までの私だったら考えられない。 「ふふ…」 魔法使いたちに感化されたのだろうか。 彼らはいつも、自分の心に正直だから。 自由で、気ままで、優しくて。 そういうふうになりたいと、いつしか私も思うようになっていた。 それが今日は少しだけ、達成できたのかも知れない。 そんなことを思いながら天蓋付きの広いベッドに入る。 ようやく慣れてきたこの部屋とも今晩でお別れだ。 次の日、私たちは昼前にアイリスの街を立った。 デレックさんとカトリーナさんに見送られて、箒で都へ向かって飛ぶ。 私はまたフィデリオさんの後ろに乗せてもらった。 「楽しかったね、レーア」 「はい、とっても!」 「カトリーナさんと仲良くなったんだってな。いつの間にそんなことになったんだ?」 「ふふ、秘密です」 「女の子同士の秘密だってー。ダメよフィデリオ、野暮なこと聞いちゃ!」 「するわけないだろ! 大体なんだ、野暮なことって!」 「あはは」 そんなふうに楽しく喋っているうちに、景色がどんどん変わっていく。 「あれ?」 だけど、見覚えのないものだった。 てっきり来た道を引き返すのだと思っていたから。 「真っ直ぐ帰るんじゃないんですか?」 「ああ、少し寄るところがあってな。長居はしないさ」 「寄るところ?」 「近くにある遺跡だよ。この前俺たちが儀式をしたところ!」
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