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重たいため息を、ぐっと喉元で我慢していたヴィオレーヌは、突如として響きはじめた怒号にハッと顔を上げた。
乱暴に馬車が停まって、つんのめった前の座席に体をしたたかに打ちつける。
いったい何が――、そう思って馬車の窓から外を伺ったヴィオレーヌは凍り付いた。
ヴィオレーヌと同じく外を確認したマグドネル国につけられた侍女が、大きな悲鳴を上げてパニックを起こす。
馬車を囲んでいた騎士たちが、大勢の武装した男たちに襲われていた。
野盗のような恰好をしているが、三百人はいるだろうと思われる彼らの動きは洗練されていて、統率が取れている。
野盗というよりは、野盗のふりをした兵士や騎士、と表現した方がしっくりきた。
それと同時に、まさか、という思いが脳裏をよぎる。
馬のいななきが聞こえて、馬車がまたがくんと揺れた。
必死に馬車の座席にしがみついていると、ガッと馬車の扉が乱暴に蹴破られる。
侍女が乱暴に外に引きずり出された。
尾を引く侍女の悲鳴を聞きながら、ヴィオレーヌはこちらに向けられる鈍色の光に視線を落とす。
にやり、と男の口端が持ち上がった。
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