初恋

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仲の良い男友達から突然の告白を受けてビックリなんてこと、世の中にはもしかしたら良くある話なのかもしれないけれど、10年以上傍に居た男友達から、結婚前に過去の淡い気持ちを告白されるだなんていう少女漫画的なイベントが私の人生の中で発生するなんて予想外の出来事すぎる。 この突然のイベントに思考停止してしまいながらも「ありがとう」とただ一言伝えると、電話の向こうの秀明はいつも私を笑わせてくれていた秀明と変わらず「おいおい、過去の話だよ」と、屈託なく笑っている。 「まぁさ、これで明日から躊躇いなく彼女との結婚準備が出来るよ。今更何言ってんだよって話なんだけど、聞いてくれてありがとな」と、気まずい空気が微塵も漂わないように、それと意識しなくても出来てしまう秀明のその根っからの優しさに、こんなときも私は救われている。 「一生に一度の俺の初恋が、おまえで良かった」 言われている方が恥ずかしくなるから止めてくれと言いたくなるようなコトも、良い意味で少しも色っぽくなく言葉にしてくれる。 「あっ、わかってると思うけど、結婚式でおまえに会えるの楽しみにしてるから、絶対に列席してくれよな」と、ちゃんと長年の友達として当たり前のことを、でも私が勝手に創り上げてしまいそうな要らない遠慮を、最初からぶっ潰しておいて「じゃ、そのうち二次会の幹事依頼もするから、よろしく!オヤスミ!」といつものように通話が切れた。 高校生の初恋なんて、身近にいる友達に何故か夢中になってしまうという熱病みたいなものだと思うけど、でも確かに、あの時の特別な感情はいつまでも自分の中に残っていて、何かの折に泡立ってくる。 きっと秀明も、結婚という人生のビッグイベントに直面して、あの無責任で自分勝手で、一瞬一瞬に真摯に向き合っていた学生時代の感情が顔を出したんだろう。 そして、きっと私はホントは知っていたんだろうなと気付く。 いつも私の傍にいてくれた秀明の気持ちを。 それを、その時じゃなくて今言葉にしてくれたことで、現実として向き合う必要のない過去にしてくれた秀明の優しさが嬉しくて、さっきまで凍えそうだった寒い冬の帰り道も暖かかく感じられた。
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