第16話 他人のセックス考察2

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第16話 他人のセックス考察2

 本田は、水月と芽衣からの視線が気になったらしい。 「こういうセックスの話をしますけど、俺はお二人の事を性的対象とは考えていません。大人は子どもを守るべき存在であって、子どもを性的対象にして食ってはいけない。これは藤原社長も同じ考えですね。それで」  本田は顎に手を添えて続けた。 「さっき、一般的に思われているセックスというものが、本来のセックスではなく、男性にとって都合の良い性欲処理の儀式だと言いましたけど、芽衣さんは思い当たる節とかありますか? うちの風俗嬢から色々話を聞くことも多いでしょう?」  芽衣は「うーん」と何を言うか考えながら、「そうですね……風俗だから、仕事だからかも知れないですけど。私がマッサージしている皆さん口々に、『男のプライドを傷つけない様に演技している』って言いますね」  本田は「まあそうでしょうね。それはおそらく風俗だけじゃなくて、実際のセックスでもあんまり変わらないですよ。セックスで演技した事がない女性って、かなり少ないんじゃないかな」と答えた。 「どうしてなんです?」水月は純粋に疑問だったので尋ねた。  本田は頭をポリポリとかきながら、答える。 「水月さんは、今確か、芽衣さんから空手の指導を受けてますよね。『守破離』(しゅはり)って言葉は知ってますか?」 「はい。まずは師匠から教わった事を守る。これが『守』。それを守って自分のものにしていくのが『破』。自分のものとしてオリジナリティなものにして師匠から離れていくのが『離』ですよね。これが関係あるんですか?」 「よく分かってますね。そうこれが大いに関係あるんですよ。俺のような男がセックスを学ぶ方法って、AVとか成人漫画なんです。ところがあれがセックスの教科書かと言うとそうはならないんです。あれは男性の性欲の解消、つまり男性を興奮させて自慰のために作られたものなんです。でも多くの男性はあれが正当なセックスだと考えて学んでしまう。つまり『守』ですね」   「あっ……」芽衣は何か察した様だった。  本田はミルクをコーヒーに入れる。少しに苦かったらしい。 「男女ともにセックスをやりたいという気持ちや欲望はある。大いに結構なことなんです。ただ男性はセックスをする事で性欲を発散して解消したい。女性はセックスという行為を通して愛されたい。ここの意識の違いが、いろいろな問題を生むわけです」  「男性は性的に興奮すればすぐに勃起するし、すぐに快感を得られる。でも女性はそうじゃない。もっと時間がかかるし、心理的な不安を取り除いて安心感を得られないと、女性は心底から快感を得られない。これが分かっていない男性が多すぎるんですね」   「まあ原始時代だったら、セックスにあまり時間をかけすぎると猛獣が襲ってきて死んだでしょうから、とにかく早くやって、早く終わらせることが正しかったんでしょうがね。今はあいにくライオンや狼が襲って来る時代じゃないんで」  ここまで話して、本田はコーヒーのおかわりをした。  水月は正直なところ、本田の話がとても面白かった。こういう視点から話をしてくれる男性など皆無だったからだ。  本田は水月や芽衣にも、注文を聞いた。しばらくして芽衣にはカフェオレ、水月にはカプチーノが運ばれてくる。  本田は話を続けた。 「風俗では無い一般的なセックスについても、まあおそらくこんな感じだと思いますよ。男女が適当にキスをする。男が女性の乳房を触って、次に女性器を触る。濡れているのを確認して指をいれて、男性器を入れる。出し入れして時間は大体、早漏で5分。早漏でなければ15分~20分で射精して終わり。まあこんなもんでしょう」  「まあこれで快感を得られる女性がいないとは言いませんが、おそらく多くの女性は、最大限に快感を得るまでには至らずに、不満を持ちながらセックスが終わります。痛いとか男性が下手くそだから、感じているように演技して終わらせる女性もいる。こうして横では射精してすっきりして寝る男と、不満を持ったまま寝る女性。これが多くのケースでしょうね」 「……それでウチに来るお客さんがいるんだ。奥さんからセックスを拒否されて」  芽衣は本田の言葉を聞いてつぶやいた。 「とにかく子どもだけは作るという夫婦だと、子どもが出来たら女性側にセックスをするメリットはなくなりますからね。セックスを拒否されてもまあ仕方はないですよ」 (そのセックスがちゃんと出来ていないから、ウチの仕事はなりたっているのか)と水月は少し複雑な気持ちになった。 「良く言うじゃないですか。『彼はセックスはダメだけど性格は良いから』と言う女性って。いやいやセックスと言うのは人間の本能に密接に関係していますからね。セックスがちゃんと出来ないで、性格が良いというのは成り立たないんですよ。藤原社長が言っている『甘く考えている』というのはその辺りだと思いますね」  本田は続ける。 「あとは、まあ女性を対等に性生活で喜ばせたいという男性よりも、性的に支配したいという男性が増えているのは感じますね。この仕事もお金を払ってそれをしたいという男性によって成り立っているから、あまり大きな声じゃ言えませんけどね」  水月は口を開いた。 「それなら……本田さんはどうしたら良いと思うんですか?」
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