第17話 本田のセックス考察

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第17話 本田のセックス考察

 水月に言われて、本田は水月をじっと見返した。 「どうしたら良いのか……というのは、どのレベルの事ですか?」 「えっと。レベルって……?」 「例えば国家の性教育的なレベルの事を言っているのか。それとも男性全体についてのレベルの事を言っているのか。AVや風俗業界の事を言っているのか。あるいは僕自身の事を言っているのか……ですね」  水月としては、どの話も密接に絡んでいるようなので、かえってどれにフォーカスしたら良いのかが分からなかった。「えっと……本田さん。すいません。どれも重要だなと思うんですけど、仕事の時間もあるから、端的に2つ聞きます」 「はい」 「本田さんのお話は、私や芽衣にとっても、とても興味深いです。1つ目は私とか芽衣に対して、本田さんはどうして欲しいと思いますか? 2つ目はここにもし男子がいたら、その男子に対してはどうして欲しいと思いますか?」 「なるほど」  本田はそう答えた後で、水月と芽衣の年齢を考えて、何を言うべきなのかを少し考えてから、口を開いた。 「まず水月さんと芽衣さんですけど」  「はい」水月は少し緊張する。  「僕がこういう仕事をしていて言うのは何ですが、20歳にならない限り、セックスは禁止ですね」 「それは何でなんですか?」別に水月としては男性嫌いで、セックスもする気は無いのだが、本田がそう考えているのは興味があった。  本田はふーっとため息をついて話す。 「さっき話した通りに、若い男性がセックスを学ぼうとすると、テキストはAVや成人漫画になります。あれをテキストにしてセックスをすると、女性を傷つけるケースが多い。下手くそなセックスに付き合って、感じている演技をするなんて馬鹿馬鹿しいにも程があります。僕は水月さんや芽衣さんに傷ついて欲しくない」 「だからですね。20歳くらいになれば自分である程度、付き合う人も取捨選択できるだろうという事です。楽観論ですけど」 「女性の性被害というのは軽く見られがちだけど、ずさんなセックスで一生を台無しにされる女性もいるので、僕としてはそれを2人に体験して欲しくないんですね」  既に御堂宗一の行為によって、水月としては重いトラウマを背負っているのだが、本田が真剣に考えてくれている事だけはありがたいと率直に感じた。  本田は後頭部をかきながら、 「水月さんや芽衣さんも、普通に男性と付き合う時も来るでしょうからね。僕から言うのであれば、AVや成人漫画を真に受けて無いで、ちゃんと女性の身体の構造の事や、心の事。生理の事や、性被害に関しても考えている。そういう男性を選ぶ事でしょうね」と話した。  水月としては、そういう時は永久に来ないとは思っているが、隣にいる芽衣はうんうんとうなづいて聞いている。  「おそらくこれから、男性はどんどん選別されていく時代になります。セックスだって外注になるかも知れない。下手くそなセックスに付き合う義理は、どんどん女性にはなくなっていくでしょうから」  「外注かあ……でも好きな人としたいですよ」と芽衣が言った。  本田は芽衣の目を見てうなづいた。 「もちろん、それが出来ればそれがベストでしょうね。これは2つ目の質問の回答になるかも知れませんが。とにかく男性は女性の事を知らなさすぎます。セックスは男性の射精のためにやるものでは無いんです。女性に最高の性の快楽を体験してもらって、それを二人で楽しむのが本来の目的なんですね。と、この場に男性がいるのならこう言います」 「もっとも……何を言っているのか分からないと思いますが。とは言えこの情報化社会ですから、自分で調べるのも大事でしょう。調べようとしない男性は、初めから論外ということですね」  本田はここまで話すと、コーヒーを口にした。 「なんだかすごい話だと思うんですけど、そういう人っているんですか?」と芽衣は興味深々のようだ。  本田は少し困ったような苦笑いを浮かべた。 「女性もそういう人を探すのは苦労している様です。一番確実なのは、きちんと芽衣さんを大事にするような男性とつきあって、その男性と一緒にセックスをする技術やお互いを大事にすることを話しながら、学びながら高めていければ良いんじゃないですかね」 「はあ……何だか大変そう」芽衣は心底困ったようにつぶやいた。 「まあ出会いというのは、縁ですからね。同じような人間には不思議に同じような縁が付いて回る。魅力的な人には魅力的な人が寄ってくる。そういうものですよ」  水月としては、御堂宗一のことが頭から離れず、さっきから頭痛がしているのをどうにか我慢している状況だった。ただ本田の言葉は、理屈としては理解出来た。  水月と対照的に、芽衣は「そっか……魅力かあ……」と妙に腑に落ちた様である。    本田は腕時計を見て、「そろそろ開店の準備時間ですね。そろそろ行きましょうか。何か異性で悩みがあれば、出来る限り相談には乗りますよ」と言いながら、立ち上がった。  本田に合わせて、水月と芽衣も立ち上がり、本田にお礼を言った。  本田の言う事は正論であり、その正論からこぼれたところに、ヴィーナス俱楽部の仕事があることは、そこにいる3人とも全員が感じていた。  準備をするために、コーヒーショップから3人はヴィーナス俱楽部に移動する。  その時、水月はいやな視線を感じた。視線が来た方向を見ると、通行人が歩いているだけであり、ことさら何かこちらを凝視しているような感じはない。  ただの気のせいなら良い。  だが、確かに感じたのだ。気のせいでなければ、あれは確かに御堂宗一の視線だった。
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