第21話 決戦準備1

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第21話 決戦準備1

「はい。えげつないと言えばそうかも知れませんが……俺の異能力は『強制自白』です。俺の瞳と相手の瞳を5秒間合わせる事で、相手が隠している道義的に問題があることを、強制的に自白させることが出来ます」 「自白の手段は口頭・筆記・SNSも可能。また自白させる時に条件付けを3つ設定出来ます。被害者のプライバシーについて書くなとか、俺と会った事を忘れるとかね。神聖千年王国の拠点に潜入するためのパスワードやID。まずはこれを手に入れるつもりです」  朝日奈真示(あさひな しんじ)は慣れているように説明した。  水月は真示の異能力を聞いて頼もしいと思う反面、自分の異能力は一体なんなのだろうかと不安になった。少なくとも使い方を学んでおかなくてはならないだろう。  朝日奈姉弟の異能力の説明が終わり、芽衣の再生掌(さいせいしょう)についての説明が終わった後、水月の異能力については、藤原社長が「詳細は現時点では言えないが、実戦に間に合うように調整していく」と話された。  藤原社長は「以上だが、何か質問があれば全体の前でも良いし、個人的に聞きに来ても良い。明日から各人に指令を与える。それから明日から1週間ヴィーナス俱楽部は臨時休業だ。風俗嬢や本田には出勤と同じ金額の給料を渡してある。明日からはこのビルは我々と、今寝ている沙羅しかいない。問題は標的である神聖千年王国本部も、同じ大阪市の中にあるということだ。尾行や盗聴、盗撮に各人気を付ける様に」と話した。    藤原社長の説明は明瞭だった。  皆が社長室を出ていく中、芽衣が残った。 「どうした?」藤原社長はいつもと変わらない口調で尋ねた。  芽衣は珍しく、藤原社長にまっすぐに向き合った。 「藤原社長。質問があります。今日来てくれた朝日奈さん達と、藤原社長はずっと以前から知り合いだったんですね」 「そうだな」 「失礼なことを言ってしまったらすいません……どうして今まで藤原社長がヴィーナス俱楽部以外でやっていることを、私に教えてくれなかったんですか? 多分いろいろなところで、戦っていたんですよね?」   「そのことか……そうだ。芽衣は優しくて、私がやっている危険な別の仕事には向かないと以前は考えていた。だから芽衣を巻き込みたくは無かったのが正直なところだな」  藤原社長ならそう考えているのだろうと思った。その通りの返事だった。 「でも……今回、私を外さないで話をしたのは、一緒に戦えということですよね?」 「……そのとおりだが、嫌か?」  藤原社長は真顔で尋ねた。 「嫌な訳ないじゃないですか。私は頭が良くないし、能力だって治癒能力しかない。それでも、藤原社長や水月の力になれるのが嬉しいんです」 「治癒能力というのは、戦争で言えば食糧だ。これがなければその軍隊は必ず負ける。芽衣、お前は自分のことを過小評価している。お前を今回の作戦に入れたのは、お前が頼りになるリターナーであり、今回の作戦に必要だからだ」  芽衣の顔がパアッと明るくなった。 「お前の再生掌(さいせいしょう)は、リターナーの再生能力を上げて、有害な毒を排出する。おそらく水月とのコンビで動いてもらうことになると思うが、頼りにしているぞ」 「ありがとうございます。分かりました」  正直、芽衣は今日来た朝日奈姉弟の話や異能力のことを聞いて、自信をなくしていた。  二人は頭の回転の良さや、それを生かした異能力を使いこなしているように見えた。  二人と比較して、ろくな教育も受けていない自分は、どれほどのものなのか。足を引っ張るのではないか、それをみじめに感じていた。  でも比較しても意味はない事に、藤原社長の話を聞いて気が付いた。  出来る事をやり、水月とのコンビなら、水月が目的を達成できるなら、思いっきり協力しよう。心構えが決まった。 「それじゃ、失礼します」 「そうだな。ああそうだ。芽衣」 「はい」 「今日保護した女子中学生だが、時間のある時に再生掌(さいせいしょう)を使って回復させてくれ。このタイミングで新しいリターナーが蘇生するのは、非常に悪い予感がする」 「分かりました」  まだ午前1時だったので、芽衣が寝る時間よりは早かった。  芽衣はそのまま女子中学生が寝ている部屋に行き、寝ている様子を確認する。  今は芽衣のスウェットを着させて毛布をかけてあるが、やはりまだ体温がかなり低い。  制服を着たままずぶぬれだったということは、川への落下による溺死・凍死だろうか?  詳細は分からないが、そのまま額に手を当て、再生掌(さいせいしょう)を使う。  まずは頭の中の傷、トラウマを緩和すると、身体全体の再生能力が高まる。芽衣には経験上分かっていた。 (この子にもいずれ、自分が一度死んだ事を伝えなくてはいけない)  先日は水月もショックを受けていたが、芽衣も藤原社長からそれを伝えられた時、ショックだった。 (私が伝える役目になったら、何と伝えば良いのかな……)と考えていると、少女が目を覚ました。  少女はびっくりしたようだが、芽衣が看病してくれているのは分かったらしく、「ありがとうございます……」と力なく、それでも笑顔を作って声を発した。 「うっ……」と少女は苦痛に呻く。 「どうしたの?」と聞く芽衣に、「背中が……ひどく痛くて……」と少女は呻いた。 「ちょっと待ってね」と芽衣は言い、背中を触る。異様な手ごたえがあった。 「ごめん、服を脱がすね」と芽衣は少女のスウェットを脱がす。  少女の背中にはまるで、恐竜に噛まれた様な酷く、そして醜い歯形が無数についていた。
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