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第28話 決戦準備8
真示は続けた。
「もちろん、正常な状態の女性なら、あの連中の言っている事がおかしいとは分かる。ただ普段の人間関係でクソな男としか付き合いがない場合、相対的にあの連中がまともに見えてしまう事もあるだろうさ」
「もっとまずいのは……深刻な性被害に遭った女性の場合だろうな」
真示はため息をついたが、そこで何かを思い出したようにおし黙った。
「なんでそこで話を終わりにするの?」
「いや……これは俺が水月に話すべきことなのか判断がつかないからだ」
「気になるから言って欲しい」
「……分かった。言うよ」少し考えて観念したように真示は口を開いた。
「深刻な性被害に遭った女性の場合、嫌な性体験を拭い去りたいという事で、不特定多数の男性と性体験を繰り返す可能性がある。あの連中の狙いは多分それだろうな。一見まともな男のそぶりをしながら、目的はそれってことだろう」
(……)深刻な性被害と聞いて、水月は自分の事を思い出した。そうか真示はリターナーの女性が蘇生する原因の多くがトラウマであることから、自分を気遣ってくれた事が分かった。
水月の場合は、深刻な性被害が男性嫌悪に向かってしまっているので、男性とセックスをしたいとは今は思わない。しかし真示の話を聞いていると、自分がその方向に行く事も可能性としては否定できなかった。
「結局……男が悪いのさ」真示は、間を置いてつぶやいた。
「……なんで?」
「エロコンテンツ見ても、男女の性生活を育んでいくとか、豊かにするとか、そういうのは無いだろう? ほとんどが男の性欲処理のために作られてる。アレをずっと見ていると女性というものを、男性の性欲処理のための存在と思うようになってもおかしくないんだよ」
「……」水月は黙って聞いていたが、本田のことを思い出した。二人とも似ているなあと。
「俺だって、好きな女の子があんな目に合わなければ、まったく気付かなかった。被害を知ってから勉強してやっとわかった。ただの馬鹿な男だった……」
「……気付いただけでも、良いと思う。それだけでも価値はあると思う」
「そうかな?」
「口先だけできれいごとを言う男は多いけど、さっき真剣に怒っている真示は、信用できると思ったよ」
「……そっか。ありがとう」
「真示の好きな人の男性恐怖恐怖症。良くなると良いね」
「ああ……そうだな……」
そう言って、真示は笑った。
この人は本当に不器用で、苦しい時にそれを誤魔化そうとして、気を遣わせない様に、わざと笑う癖があるんだと水月は改めて感じた。
場所が変わり、ヴィーナス倶楽部。
時間は18時である。
沙羅には精神安定剤と、睡眠導入剤を飲ませて、今は眠ってもらっている。
社長室には、藤原社長と千歳、芽衣、帰って来た水月、真示がテーブルに座っている。
内容は2つに分かれたグループの成果報告である。まずは千歳が沙羅から「追憶共有」で得た情報を、千歳が脳内で編集し、重要と思えるものを、皆の脳内に共有させた。
皆の心がざわつく。これでも千歳が編集してあるからこれで済んでいるのであり、全てを見せていたら、これではすまないだろう。
「沙羅ちゃん……」芽衣は初めて具体的な沙羅が襲われた映像を見て、悲痛な声を上げて、両手で顔を覆った。
「……御堂宗一はやっぱり生きてたんですね。しかも凶悪な化け物になったみたいで」水月が低い声でつぶやいた。
「……異能力の中でも『異生物化』を選んだようだな。御堂宗一が言っていた『手術』とやらが気になるが……。どうやら『暁の明星』には人間をリターナー化させる技術があると見てよいだろう」藤原社長は、あえて感情を込めないようにし、重要ポイントを指摘した。
「しかしこれとやりあうとなると、毒対策が必要ですね。全部を芽衣で補うというのも、乱戦だと上手くいかないでしょう。他にも教祖や『暁の明星』のリターナーがいる可能性もあるのに」真示が危険性を指摘する。
「御堂宗一を全員で攻撃して、次は教祖という具合に戦えれば良いがな。敵も馬鹿じゃない。おそらく戦力は分散せずに集中している可能性の方が高いだろう」藤原社長が冷静に意見を述べた。
「千歳。頭の具合は大丈夫か?」ふと気づいて、藤原社長が心配して尋ねる。
「芽衣さんに脳をケアしてもらって、良くなりました。ご心配ありがとうございます」
千歳は心配をかけないように、笑ってみせた。
正直、まだ重いトラウマが残り、頭痛が酷い。
(こんなことで泣き言言ってられない。沙羅ちゃんの敵を討つって約束したんだ)
千歳は、頭痛をこらえて丹田の呼吸に集中した。
「それでは真示と水月の調査結果も出してみるか」藤原社長がパソコン画面を操作し、リンクをクリックすると、神聖千年王国敷地内の画像、電子機器の場所、警備システム、監視カメラの映像が出て来た。警備室の画像までもがリアルタイムで見る事が出来、藤原社長が画面をクリックすると、カメラの方向すら変更出来る。
「すごい…! まるでゲームみたい!」芽衣が声を上げた。
「あのガラス球なの? これって?」
「名古屋にコンピューターのネットワークシステムに特化した、リターナーがいるんだよ。その方の異能力『電子系統樹』のひとつがあのガラス球なんだ。あのガラス球は種みたいなもので、植物の様に電子世界に根を張ってシステムをハッキング出来る。今回は他に要件があるから来られない代わりに、あのガラス球を使わせてもらった」
真示が説明した。
「これで全てを把握できるな。暗殺で厄介なのは、一般人を巻き込む事でもあるからな。これなら警備室にいる警備員も巻き込まずに出来るだろう。何かあれば電力を落としてエレベーターを止めることも出来る。よくやったな真示、水月」
「まあ任務ですからね。しかし本部ビル11階から13階は、どうやら監視カメラすらないようですね」
「あくまでもブラックボックスということだな。そしてここに教祖、教祖補佐である御堂宗一、そしておそらく『暁の明星』のリターナーもいると見て良いだろう」
「藤原社長。質問があるんですが」
「芽衣、どうした?」
「今回……御堂宗一のことは事前に分かったんですが、教祖と『暁の明星』については、藤原社長はどんな異能力を持っていると考えているんですか?」
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