第32話 黒須霧人

1/1
前へ
/51ページ
次へ

第32話 黒須霧人

 黒須霧人の異能力をかけられた女性は、自分が被害に遭った中で、最も酷い性被害を、脳内で再現されていた。  黒須霧人にはその映像が見えており、彼女がどのように扱われたのかが良く分かる。  どう考えても道義的に間違っているのは加害者側なのだ。  しかし、黒須はその映像を見ながら問いかける。 「君は嫌だと言いながら、肉体はずいぶんと感じている様じゃないか。いい声をあげている」 「お願い……止めて」震えながら女性は何とか反論するが、声に力が入らない。 「気持ち良かったんだろう? こんな男たちにされても。君にとってはこの連中はクソ男だと思うが、そのクソ男と一緒に快楽を味わっている点で、君も同じだろう」  性被害を受けた時に感じる性的な快楽の記憶は、後になって被害者を苦しめる事がある。  快楽を感じた事で自分も同意していたのではないか。  自分も、加害者と同じような人間ではないのか。  そのような思いが、被害者を苦しめる。  黒須霧人はそれを分かった上で言っているのだ。  拷問部屋で女性の精神をボロボロにし、拷問を堪能した黒須は、そこを施錠し私室に移動した。  葉巻に火を付けて吸っていると、スマホが鳴る。重要人物からだ。 「お疲れ様です。リーダー。こんな夜更けにご忠告とはありがたいですね」  黒須がうやうやしく話す。 「なるほどね……可能性とは言え、神聖千年王国を狙っている連中がいると。確証は無いが気を付けろということですか。ありがとうございます」 「大丈夫ですよ。リターナーの多くは深刻なトラウマによって蘇生している。私の『異能力』はまさに対リターナー用と言っても過言じゃない。もちろんリーダーには敵いませんがね」 「連中が女なら、拷問用のコレクションに加えるだけです。ありがとうございます」  電話は終わる。  黒須は自分の異能力『再演』について、絶対の自信を持っている。  スマホを見てみると、例の「性加害学習サークル」のメンバーからのチャットがいくつか入っていた。 「デートドラッグを大量購入するのはどこが良いか」 「あとで性的同意を得ていないと言われないようにするにはどうしたら良いか」  違法な薬を扱うネットショップを教え、あくまで女性が性行為を選択したかのようにする話術を教える。黒須はこのサークルのメンバーに関しては親切だった。  葉巻を灰皿におくと、黒須はある肖像画の前に移った。  その肖像画には、25年前に亡くなった高名な女優の絵が描かれていた。  変わっている点は、その肖像画の女優の額の部分に、実物のナイフが刺さっていることだ。 「母さん……これも全部あんたが原因だ」  黒須は毒を吐くように、肖像画に向かってつぶやいた。  黒須は外見は20歳ぐらいだが、実年齢は50歳である。  高名な女優の息子として生まれ、将来を期待されていた。  歌唱や演技も評価が高く、将来は大物俳優になると言われていたくらいだった。  成人を迎え、芸能界に黒須は入る。  しかし、そこで彼が受けたのは、芸能界の男性達、俳優や社長、プロデューサーなどによる性加害だった。  180センチの恵まれた体躯を持っている彼でも、地位を盾に、将来を盾に、人数を盾にされれば、逃げる事が出来なかった。  彼は、なすすべもなく凌辱された。  しかし、黒須は知る事になる。  彼を男性達に献上したのは、女優として延命を図るための、母の策略だったと。  信じていた、愛していた母に売られた思いと、傷つけられた自分の尊厳に苦しみ、黒須は自殺を図った。  しかし、彼の場合は自殺と発見される前の段階で、リターナーとして蘇生した。  蘇った時に既に悲しみや恨みが力となり、『再演』が使える様になっていた。  まず母と食事をし、その後に母を自宅のベッドに拘束して『再演』をかけた。  自分の息子を、性加害者達に売るぐらいだ。  母自身も酷いトラウマを抱えているに違いないと考えていたが、まさにその通りだった。過酷な芸能界で生き残るために、母もまた映画監督や権力を持つ者、有名俳優に凌辱されて生きてきたのだ。    存分に母の酷いトラウマを再現させて、苦痛をじっくりと味合わせていく内に、黒須はこの行為に性的な快感と支配欲を得る事に気が付いた。  2度ほど母に『再演』をした結果、母の精神はボロボロとなり、廃人として精神病院で亡くなる事になった。  それから黒須は芸能界で自分を凌辱した者たちを『再演』で全員抹殺した。  母の亡くなった生命保険金を投資に回し、今は神聖千年王国の学生として活動しながら、芸能人に女性を「献上」する仕事をしている。  加齢しないと不審に思われるため、他人の身分証明書を売るマーケットから、身分証明書を購入もした。  黒須は最近は地下アイドル業界ともコネクションを持った。  親が子どもを売る……すべてでは無いが、それが多い業界だからこそ、黒須の獲物にありつけると考え、ほぼほぼ予想通りだったことに、黒須は満足している。  「献上」出来る商品としても、その結果として傷つけられたら『再演』で楽しむ事が出来る。    彼の生きる原動力は、いかに女性を傷つけるか。  その一点だった。それは母に裏切られた事が原因であった。  傷つけている時。蹂躙している時に彼の支配欲が満たされるのだ。  そしてその時には、彼の心の傷が痛みを感じなくなるのだ。 「アンタの息子は、人生を謳歌している。だからアンタも地獄で悪魔どもと楽しくセックスでもしてな」  母の肖像画に向けてそう言うと、黒須は日本刀を取り出した。業物である。 「生意気な女リターナーにはこれが一番良い。今回は何人コレクションが出来るか楽しみだ」  鞘から抜いた刀を見つめる黒須の目には、復讐心と悦楽が混じっていた。
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

181人が本棚に入れています
本棚に追加