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「では逆に聞くが、お前は誰かに命を救われて、そこに感動するような理由がなければ、命を救われたことに感謝はしないのか?」
「……そんなことはないけど」
そこに理由があろうとなかろうと、命を救われたら感謝するのは当たり前だ。……なんだ、そっか。
「誰もわたしに、失望しません……?」
「そもそもお前にそんな幻想は抱いていないから、失望する材料がない」
それはそれでちょっとどうかと思うけど、まあいいや。
思いつめていたのが馬鹿らしく思えて、わたしはふにゃりと笑う。その拍子に、ぐーっとわたしの腹の虫が主張した。
安心したらお腹がすいて来たみたいだ。
「食事を運ばせよう。ここのところろくに食べていなかったのだろう?」
クラヴィスがそう言って立ち上がる。
わたしは遠ざかろうとするクラヴィスに、反射的に手を伸ばした。
くいっと袖の端っこをつかむと、クラヴィスが振り返る。
「魔王様、その……ありがとうございます」
クラヴィスは口端を持ち上げた。
「クラヴィスだ。少し待っていろ」
クラヴィスが部屋を出て行くと、わたしはもぞもぞと布団を鼻の頭まで持ち上げる。
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