まさか……

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まさか……

 男が入院してから二日後、検査結果を見た医師は顔をしかめた。 「別の精密検査をしましょう」  様々な検査のあと、医師は男の家族を呼び出して宣告した。 「末期ガンです。手の施しようがありません。本人に伝えますか?」  男は、泣き崩れる母親に、「そうか」とだけ言い、延命処置を希望しない旨を伝えると、女と姉には病気のことは触れず、ただ、新しい歌を作っているからしばらく会えないと連絡した。  だが本当は――死にたくない、会いたいと、伝えたかったのかもしれない。  すぐに女から「OK」の絵文字がたくさん送られて、姉からは「待ってるよ」と返信されると、男は、入退院を繰り返していた子供時代を思い出したのか、人目を避けて、いつまでも泣きじゃくっていた。  それから一週間、男は日がな一日病室の外を眺める生活を送っていた。やがて訪れる死を前に、心が折れたのかもしれなかったが、次の週からは精力的に作業を始めるようになった。  静かになったのは秋を迎えて、地面が落葉樹の赤や黄色で染まる頃だった。  三人が揃って出社することがないまま月日は流れ、都内の某マンションの一室では―― 「嘘つき――死なないって言ってたくせに……」 「あいつ、アタシに無断で何なのよ。ホントにもぉ……バカァァァァァッ!」  ――男の母親が小箱と訃報を届けに来ていた。二人が見舞いに行った日から三か月後の、町ではハロウィンイベントで盛り上がっていた夜のことだった。
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