1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
そして再び
控室で二人を待っていた社長は、両手を広げて迎え入れる。
「よかったよかった。新曲のお披露目もできたみたいだし、まさに一石二鳥! 引退の話は白紙に戻して、これからは新生ソエネとして、もっともっと活躍してもらうよ」
興奮気味の彼はそう言い置いて、その足でスポンサーのところへ向かった。
姉が髪を掻き上げる。
「まさか、こんなことになるなんてねぇ」
「私、あの人に会いたい――会って新曲を聞かせたい」
女が消え入りそうな声で言った。
「あいつのことだから、あんたが歌っているところをイメージしながら作曲したに決まってるわ。何度も何度も――だから大丈夫よ」
「そう、だね。うん。そうだといいね」
女の顔が明るくなった。
「湿っぽい顔をしてるとあいつに笑われるよ。それに新生ソエネは、これから忙しくなるんだから、あいつの分まで頑張らなきゃ」
二人は、それぞれに納得した面持ちで腰を下ろした。
長机には小箱があり、男が病院でしたためた想いの全てが詰まっている。新曲のデータのほかにも、男からの溢れんばかりの感謝の言葉が――男の母親から手渡されたそれに、二人は目を落とした。
「それにしてもあいつ、クリエイターというより策士だわ。こうなることを予想してたとしか思えないわね」
「だって作詞家だもん。当たり前でしょ?」
小箱にはクリスマス・プレゼントも入っていた。二人はそれを手に取り、同時に頷くと、天井の向こう側に向かって声を揃える。
「「メリークリスマース!」」
その美声は、天に召された男の耳にも届いていることだろう。
二人の新たな門出を祝福するかのように、会場の周りでは、聖夜にふさわしい純白の小雪が、軽やかなダンスを踊っていた。
【おわり】
最初のコメントを投稿しよう!