そして再び

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そして再び

 控室で二人を待っていた社長は、両手を広げて迎え入れる。 「よかったよかった。新曲のお披露目もできたみたいだし、まさに一石二鳥! 引退の話は白紙に戻して、これからは新生ソエネとして、もっともっと活躍してもらうよ」  興奮気味の彼はそう言い置いて、その足でスポンサーのところへ向かった。  姉が髪を掻き上げる。 「まさか、こんなことになるなんてねぇ」 「私、あの人に会いたい――会って新曲を聞かせたい」  女が消え入りそうな声で言った。 「あいつのことだから、あんたが歌っているところをイメージしながら作曲したに決まってるわ。何度も何度も――だから大丈夫よ」 「そう、だね。うん。そうだといいね」  女の顔が明るくなった。 「湿っぽい顔をしてるとあいつに笑われるよ。それに新生ソエネは、これから忙しくなるんだから、あいつの分まで頑張らなきゃ」  二人は、それぞれに納得した面持ちで腰を下ろした。  長机には小箱があり、男が病院でしたためた想いの全てが詰まっている。新曲のデータのほかにも、男からの溢れんばかりの感謝の言葉が――男の母親から手渡されたそれに、二人は目を落とした。 「それにしてもあいつ、クリエイターというより策士だわ。こうなることを予想してたとしか思えないわね」 「だって家だもん。当たり前でしょ?」  小箱にはクリスマス・プレゼントも入っていた。二人はそれを手に取り、同時に頷くと、天井の向こう側に向かって声を揃える。 「「メリークリスマース!」」  その美声は、天に召された男の耳にも届いていることだろう。  二人の新たな門出を祝福するかのように、会場の周りでは、聖夜にふさわしい純白の小雪が、軽やかなダンスを踊っていた。 【おわり】  
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