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僕のヒッティングマーチ
僕は、三歳から今年の三月までピアノを習っていた。母親がピアノ教室をやっているから、無理やりやらされたわけ。
本当はトランペットをやりたかったんだ。なんで僕がトランペットをやりたかったかっていうと、小学二年の時に初めて行った甲子園球場のアルプススタンドで、応援歌を演奏する高校生を観たからなんだ。
僕もあんな風にスタンドで演奏できたら楽しいだろうし、お客さんが一緒になって盛り上がってくれるだろうと思ったんだ。僕がアルプススタンドの演奏を聴いてそうだったように。
でも、やらせてもらえなかった。なんか「うるさい」ってさ。ピアノも変わんないよ。ピアノの方がでかいから邪魔じゃん。トランペットに謝ってほしいよ。
僕は、五歳から今年の三月まで水泳を習っていた。母方の伯父がスポーツジムを経営してるからで、無理やり入れられたわけ。
本当は野球をやりたかったんだ。なんで僕が野球をやりたかったかっていうと、幼稚園児の頃に初めて観に行ったプロ野球の試合で、二塁を守ってた山下雄太選手が物凄いファインプレイをしたからなんだ。
僕もあんな風に格好良く飛んでゴロを取ってヒットをアウトにしたら気持ちいいだろうし、それを観た人達が興奮するだろうと思ったんだ。僕が山下選手のプレイを観てそうだったように。
でも、やらせてもらえなかった。野球って、結構親も駆り出されるらしい。遠方に試合に行くこともあるし。中学受験をする兄貴の世話で、それどころじゃなかったんだろう。
高校だって、自分で選べなかった。野球や吹奏楽の強豪校なんて、うちの両親が僕に行かせるわけがない。
兄貴は中学から私立なのに、僕は公立。塾だって授業料が一番安い所で、しかも中三で夏期講習しか行かせてくれなかった。兄貴には、小学校低学年から有名進学塾に通わせて家庭教師まで付けてたのにさ。
高二になる時に水泳もピアノも辞めちゃった。受験勉強を口実にね。密かな抵抗だったけれど、それはすんなり受け入れられたんだよね。
母親は別に僕に音大に行かせたかったわけじゃないみたい。まあ、音大って学費が高いもんね。ただ出てれば音楽で飯が食える程、世の中甘くないわけだし。そもそも音大って受験するのにもお金が掛かるじゃない。よく知らないけど。
伯父はやたら経営学部を勧めてきたけど、自分に子供がいないからって僕に会社を継がせたいと思っていたみたいなんだ。経営者になるから経営学部って安直じゃないか。
親父は、兄貴のことしか関心がないみたいだからさ。親父と何かしたとか、何処かに連れて行ってもらったとかいう記憶がないもん。
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