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「愛音ちゃんって、すごく静かだよね」
もう何度目かも知れないその評価に、私は曖昧に微笑む。
幼い頃から、私はとても気弱な性格だった。他者とのコミュニケーションが苦手で、人前で話すことは元より、家族や友達との会話ですら、何か伝えようとすると緊張してしまって、発声の前には心構えが必要だった。
頭の中ではちゃんと話したいことや返事を考えられるのに、それを相手に伝えることが……咄嗟に言葉を声にするのが、極端に苦手だったのだ。
例えば授業の音読では、当てられてもすぐに最初の一音を発するのもままならず。少し遠くの人に用がある時は、一度大きな声で伝えれば済むのに、近くまで駆け寄る方が気が楽だった。
「最近学校はどうなの」なんて、家族から何気なく投げ掛けられた問いにすら咄嗟に答えられず、イジメにでもあっているのではと疑われた。
頷いたり首を振ったり、指を差したりジェスチャーで示したり、意思疏通の仕方は幾らでもあった。
けれど緊急時や、明確に伝えたい時にはやっぱり不便で。もっと気軽に、皆と同じように楽しく話してみたいと思う日々だったけれど、そう簡単にもいかなかった。
そんな調子だから、先日から始まった合唱コンクールの練習なんて、まさに地獄だった。日頃ろくに使わない声帯に音程なんて高度なものを再現出来る訳がなく、必死に口パクをして遣り過ごすしかなかったのだ。
「……好きで静かな訳じゃないのに」
そんなある日、合唱練習を終えた帰り道で、私はある一軒の『店』を見付けた。
どこからか聴こえて来た、今まで聴いたことのないような美しい歌声に導かれるように、気が付くと普段なら通らない道へと足を踏み出していたのだ。
入り組んだ路地裏の、その先の細い道の先。姿を現したのは、この辺りでは見たこともない、まるで絵本にでも出てきそうな古い煉瓦造りの小さな建物。澄んだ歌声は、この中から聴こえる。
以前からここにあったのだろうか。周囲に他の建物はなく、ぽつんとこの店だけが忘れられ取り残されたような、不思議な空間だった。
いつもなら、初めてのお店に一人で入る勇気はない。出直そうかと思ったけれど、次に訪れた時、またこの歌が聴こえる確証はないのだ。
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