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それから揺れること数分、少し開けたところに出てきた。どうやらここが今回の撮影場所の様だ。集まってる3人組が手を挙げているのが見えた。
「こっち、こっち!」
大きな声を出して手を振ってる男、動画でも何回か見た顔だ。助手席の柏木が声をかける。
「おはようございます。稲垣さん、本日はよろしくお願いします」
「おはざーす♪ 動画通り僕のことはイナゴでいいっすよ。皆さんよろしくお願いしゃーす。とりあえず車止めるところに誘導しますね」
そう言ってヤサカニTVのイナゴは元気いっぱいに車を誘導しはじめた。
「ほら、感じのいい人じゃないですか。ちょっとチャラいけど」
「ねぇ! 感じの良さそうな人っスね。ちょっとチャラいけど」
「そうだな……。ちょっとチャラいが」
そうして3人が車を降りると、機材を適切な位置にセットし終えた後2人がイナゴと並んで古谷たちを出迎えた。
「どーも♪ 改めまして、ヤサカニTVのイナゴです」
「フグです」
「カラスデス」
「「よろしくお願いしゃーす!」」
3人の挨拶を返すように堂島達も挨拶をする。一通り終えるとヤサカニTVの歓喜の声が上がる。
「うわぁ、本物のテレビクルーに会えるなんてぇ、ユーヌーブ配信続けてて良かったぁ!」
「喜んで貰えるのは嬉しいですが、本当にこんな人数で良かったんですか?持ってきた機材もカメラとマイクぐらいですし……」
そう言って柏木が車内から取り出したカメラを取り出す
「うぉすご! ゴッツ!」
「えへへ、よく言われるんです。でも持ちやすいんですよワタシのカメちゃん。画質、音声ともに超高性能で、その他にもワタシ好みに色々カスタマイズしてるんですよ。」
「ほへぇー、やっぱプロは違うんですねぇ」
今度は堂島が車内からガンマイクを持ち出した。
「うわぁ、マイクにネコついてるのかと思った!」
「はは、ウインドジャマーね。風の雑音が防げるけど、今はそんなに吹いてないな」
「あぁびっくりした」
「驚いてもらって悪い気はしないですけど、本当に持ってきたのこんなもんなんですが……」
堂島がそう言うと、ヤサカニの3人は同時に首を振った。
「いいんすいいんす! こっちにもある程度の物はありますし、ホンモノの人達がどんななのかを学ぶ機会とそれを動画にしたかったって感じですし」
「そう言うことならまぁ」
「特にこちらが一番見たいのは、古谷さんですよ! ちっさい頃から知ってましたよぉ。スポーツ番組とかで実況してるの! 特にプロレス! やっぱり熱い実況があるとあぁ言うのは更に盛り上がるんですよねぇ。ウチらも当然喋る時があるけど、流石にあの熱量で喋り続けたりするのは出来ないですもん……。今回の動画で、そう言う部分勉強できたらなって!!」
謙遜してるようだが、充分熱量のある古谷褒めだった。故に古谷は……。
「まぁね! 君たちぃわかってるじゃぁないかぁ! こんなに褒められたのは久しぶりだなぁ!
えぇ?!」
と、上機嫌。面倒ではあるがこう言うチョロい部分があるのが古谷という男である。これもある意味面倒臭いが、ずっと不機嫌でいられるより扱いやすい。とにかく古谷の機嫌が良くなったように見えて良かったと思い、柏木と堂島は口角を上げた。
「まぁ、てな感じで。今回はプロのテレビクルー達を見て俺たちのレベルを上げようって動画なんす。実は俺たち、皆さんの入ってくる絵が欲しくて、もう撮影スタートさせちゃってるんですけど、皆さん準備どうすか?」
「そんなもんバッチリよ! そっちはもう始めてるって何? 気合い十分じゃないノォ! こいつぁプロとして負けてらんないねぇ? なぁカッシー、ミッチー!」
「は、はい」
「そ、そっすね!」
古谷と一緒に高笑いするヤサカニTV3名を尻目に柏木と堂島は、
「ありゃ完全に機嫌治ったね。さっきまで下請けだのなんだの文句言ってたのに」
「うん、あだ名で人の名前言う時は機嫌良い証拠だからな。単純だなぁあの人」
そんなやりとりには気付かず、古谷は先頭に立って移動する。
「さてさて、あの三脚のスマホカメラの前まで行けば良いのかな?」
「そうですそうです! 入りの絵は撮れたので、次は俺との挨拶って感じで」
「そうかわかった!」
自分の頬を軽く叩き、やる気MAXな古谷は、軽くスキップするようにして前に進む。ついでにお得意のトークも挟む
「さぁ、大変長らくお待たせいたしました。今回のゲストにお呼ばれいたしましたのは他でもありません、皆様ご存知、古谷敏夫でございます」
早速トークが聞けるからか、ヤサカニの3人から「おお!」という声が上がる。古谷は更に続ける。
「数多のスポーツを熱狂させ、数多の番組を支えてきたこと、うん十年! 今は三浦放送局というTV局におります。名前を検索すれば「干された」だの「消えた」だのと二つ名のように付いてきますが、この通り、絶賛活躍中であります。本日はヤサカニTVとのご縁で、久方ぶりのロケ形式。場所は殺風景なところですが、それ故に、実況アナウンサーとしてのお力を皆さんにお見せするまたとない機会。やれよと言われたらやってしまうのがこの男、見せろと言われたら見せてしまうのがこの男、古谷敏夫。実況アナウンスは本来裏方の仕事ではありますが、今日はメインとさせていただきます。本日もノンストップでいきましょう。ワタクシお得意のマシンガントォォォ」
クまで言おうとした瞬間、ズボォ!! という音を立てて古谷は地面に吸い込まれた!
「ええぇ?! 古谷さん?!」
心配する柏木と堂島が穴を覗く。自体が飲み込めてない2人だが、ヤサカニTVの3名は腹を抱えて笑っていることを見るとこれは……
「落とし穴?!」
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