第1回

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「お、おい、聞いたかみんな? マシンガントォォォ?! だってよ! ブハハハハハ!」 「聞いた聞いた! すげー落ちっぷり。くぅふふふ」 カラスは笑いすぎるあまり言葉が出ないようだ。運悪く頭から落ちた古谷はピクリとも動かない。 「ちょっ、ちょっと、古谷さん大丈夫ですか?!」 「うわぁ、犬神家の一族みたいになってる」 「くっ……、ちょっと堂島くん、余計なこと言わないでよ」 「ほんとっすよ、これ以上笑かさないでぇ、ひひひひひひぃ」 「あ、あのこれって」 「くふふ、あ、そうだそうだ。せーの、ドッキリ大成功!!!」 「やっぱりかぁ」 人為的に掘られた穴。一体何時間かけて掘ったのかわからないが、素人がやるにしては相当なものだった。古谷はようやく足をモゾモゾ動かし始めた。 「あのねぇ、今更TVの力なんて借りなくても、俺たちやっていけちゃうんすよ!前の動画だって、もう50万再生以上いってるんですよ?そりゃ大御所の方達から学ぶことはあるんでしょうけど、低視聴率の弱小ローカルTV局から学ぶことなんて……ねぇ?」 「ないよなぁ?」 ヤサカニTVの3人は大きく何度も頷く。やっとの思いで古谷は顔を上げることができた。土だらけの顔がものすごかった。 「古谷さんお疲れさんした。よく撮れてたと思いますよぉ落ちる瞬間。ああ! その顔も最高です」 「お疲れさんって」 「はい、もう皆さんの出番終了です。お陰で良い絵が撮れましたよ♪」 「いやいや、あの、撮影始めたばかりじゃ」 「TVの人なのに察し悪りぃなぁ。あのねぇ、あなた方呼んだのこの落とし穴のためだけだから。もう落ち目の三浦放送局を使って面白い絵を撮りたかっただけだから。はい、以上解散」 「でも、学びたいことがあるんじゃ」 「ないない、そんな志なんかあったらユーヌーブなんてやってないよ。俺たちは再生数が稼げればそれで良いんだもん」 無事撮影を終えたことを喜ぶように乾いた拍手を何回も鳴らすイナゴ。そんなイナゴの横に古谷は立つ。 「あ、古谷さぁん。素晴らしかったですよ落ちっぷり。写りもバッチリ! 流石はプロです。良かったですねぇ、古谷さんもう落ち目なのに、この動画で再熱すること間違い無いですよ」 「あ、そう」 「てことで、本日は以上となります。いやぁ今回の動画は何万再生だろう〜。楽しみだなぁ。こんなんで金稼げるんだからユーヌーバーやめらんねぇわ」 「あ、そう」 「古谷さんたちも再生数稼ぎ協力して下さいねぇ!」 「あ、そうだ」 「ん、なんです?」 「イナゴさん、またとない機会だから教えてあげますね」 そう和かに言った古谷はイナゴの首めがけて痛烈なラリアットをかました! 「バチィン」という肉と骨の衝突音と共に、イナゴは穴に落ちていった。 「ええええ?! 古谷さん?!」 「イ、イナゴォォ!」 驚く一同を置いていくように車の方に進む古谷、慌てて止める堂島のポケットから車のキーを取り出し、さっさとエンジンをかけてしまう。柏木と堂島は機材と共に車に飛び乗ると、とてつもない勢いで車は進み出した。ヤサカニの面々はイナゴを穴から引っ張り出すのに悪戦苦闘している。 「古谷さん、古谷さん! 何してるんですか?!」 「長年見てきたラリアットを一発」 「そうじゃなくて、不味いですって! 戻りましょうよ! 謝りましょうよ!」 「……謝る?」 「そうですよ! 久しぶりのロケでこんなことになるなんて本当に不味いですよ。戻って謝罪すればきっと……」 「お前らは悔しくないのか!?」 古谷の一喝に押し黙る2人、少し息を切らすように古谷は続ける。 「あんな何処の馬の骨とも知らない奴らに……。礼節も、信念も感じない奴らに、あそこまで苔にされてんだぞ!」 「そりゃ……まぁ……あんまりだなとは思いましたよ! でも、あそこで怒り狂ったり、手を出したりしたらコンプライアンス的にも不味いっていうか」 「俺を許可無しに落とし穴に落とすのはコンプライアンス的に不味くないのか?笑い物にするのはコンプライアンス的にOKなのか?」 「いやうーん、OKってわけじゃないですけど……」 「なら何故声を上げない?何故怒りを表さない?」 「古谷さん、もうそんな時代じゃないんですよ」 堂島は言う。 「今のTVが何て言われてるか、古谷さんだってご存知ないわけじゃないでしょう?もう誰もがスマホを持ってる時代、TVなんて必要ないだの番組がつまらないだのなんだのSNSで沢山言われてるんですよ。」 「だけどなぁ……」 「分かってます!お怒りはお察しします!でも考えてもみて下さい。あっちは今人気絶頂の動画配信者、こっちは弱小ローカルTV。いくらこっちがプロでも、力の大きさで言えばあっちの方が上なんです。ただでさえヤラセだのなんだのでTV界が世間から疑われ始めてるんですよ。素人がプロを食い殺すなんてことは珍しくない世になってしまったんですよ! TVはもう舐められ始めてるんですよ!」 古谷は黙ってアクセルを踏み続ける。ハンドルを握る手が震える。古谷は絞り出すように続きの言葉を出した。 「なぁ、日本のエンタメはいつからあんな馬鹿どもが牛耳る植民地になったんだ。俺たちの大和魂はいつから薄れてしまったんだ?」 「植民地って……」 「支配されてるだろ! 映像の世界が、礼節のない奴らの食い物にされてるだろ!! アイツらは撮影の際に生じる苦労だって俺たちより知らないし、何より信念が無いだろ! エンタメってのは、映像ってのは、そんな軽い気持ちでやれるもんじゃなかったはずだ! それをなんだ今の時代の奴らは。スマホ片手に映像撮って、気軽に動画UPってか? ふざけんな! 俺たちやその前の人たちが作り上げてきた映像の世界を、後から来た訳のわからん素人どもが掻っ攫っていくほど安い世界じゃないんだぞ!!」 古谷は唾が飛ぶのも気にせず口を開ける。 「ていうか、何であいつらヤサカニTVなんだよ! 動画配信者ならもっと色々あんだろうが、名前までTVを掻っ攫ってんじゃねぇよ!!!」
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