第1回

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途中からヒートアップしすぎて古谷が何を言ってるかよく理解できなくなってきている2人。とにかく戻って欲しい気持ちで声をかけ続けるが、そんな最中、柏木のスマホが鳴った。部長からだった。どうやらヤサカニの面々が電話で報告したらしい。電話越しに部長の困惑した声が聞こえる。柏木が部長の対応をしながら古谷を眺める。そんな状況を見て堂島は頭を下げて言う。 「古谷さん、お願いします。本当に戻って下さい。今回ので騒ぎになったら……もう……」 「……」 顔を上げた堂島は古谷の頭部を見た。所々に白髪が生えている。50代の古谷が今まで味わってきた苦労を無視したいわけではない。だが堂島側にも言い分があった。 「こんなこと言いたくはないですが、古谷さんはまだ良いじゃないですか。裏方なのに有名になって、バブル期だって味わえたんだ。頑張れば報われる時代を経験できたんだ。……今の僕たちはなんなんです? 頑張っても給料大して上がらないし、褒められもしないし、この先もどうなるか分からない。そんな世の中だから、ほんの少しでも夢を見たい気持ちで入ったTV業界。それが今や時代遅れの烙印を押されそうになってる。この時代で歯を食いしばることが馬鹿馬鹿しいと思うこともあります。僕、ヤサカニTVの気持ち少しわかりますもん。再生数だけ稼げれば金だって入ってくるし。ある程度知名度があれば多少の無理したって視聴率は取れる。一度でも上手くやれさえすれば、苦しい思いをしなくて済むんだ」 電話を切り上げた柏木も口を挟む。 「私も元々タレントとしてやりたかったけど、結局夢破れました。それでもなんとか業界にいたくて、気付いたらカメラを使う仕事をしていた。自分の顔を売りたかったのに、周りの顔を映すようになってました。虚しかったけど、それでも業界にいることに誇りを持ってるんです」 「この先どうなるかはもちろんわかりません。世評通り、このままTVが衰退していくかもしれないし、ユーヌーバーみたいな奴らが衰退してTVが盛り返すかもしれない。でも、今。今終わってしまったら、僕たちは何の為に歯を食いしばってたのか本当にわからなくなってしまうんですよ」 古谷が何か言おうとして口を開けたが、言葉が出てこなかった。今度は2人同時に頭を下げた。車の揺れにも負けずに下げ続けた。少し口を噤み、目を閉じて、大きく息を吐き、古谷は喋った。 「……分かった、戻ろう」 「古谷さん」 「俺が悪かった。とにかく謝るよ。許してもらえるか分からないけど、それで前みたいになるか分からないけど、俺のできる精一杯なことをやって、君達を……TV業界を立て直してみせる」 「古谷さん……前……」 「あぁ、まぁ、どうなるか分からんが兎に角全力で……」 「古谷さん!!! 前!! 前!!」 「え?」 車の前には大きな木が迫っていた。3人同時に悲鳴を上げた。車はとてつもないブレーキ音を立てたが、ものすごい勢いで木にー
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