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気付いた時、シートベルトが食い込んだ痛みが3人を襲った。なんとか衝突は免れたらしく、ぶつかった衝撃は無かった。
「あぁ、あー、危なかった」
「……皆んな無事?」
「あ、あぁ、いや、すまん、本当に何から何まで」
心臓が張り裂けるように痛い。交通事故でここまで死にかけたことは3人とも初めてだった。
「うまく避けられて良かったですね。危うくあの木に……アレ?」
素っ頓狂な声を上げた柏木だが、遅れて2人も声を上げた。
「さっきの木はどこだ、避けたんですか?」
「いや、多少ハンドルを切ったかもしれんが見失うはずは……」
「ていうか、道、変わってません? こんなでしたっけ?」
今まで通っていた道より、今いる場所は明らかに雑草が多かった。そもそも車が通る道が無くなっていた。困惑する3人は車を降り、辺りをぐるぐると見回すが、どう視点を変えても見慣れない景色が広がるだけだった。
「どうなってるんだ」
3人同時にボヤく。だがこんな時、現代人が困った時に手を伸ばしてしまうのはスマホ。柏木がスマホの画面を見ると……
「あれ、圏外になってる……」
「さっきまで電話してたよね?」
「う、うん。おかしいなぁ」
当然マップも開けない。ますます困る3人だったが、そんな困惑が消し飛ぶ事態が起きた。近くの林がガサガサと音を立て始めたのだ。固まる3人の前に現れたのは……
「びっくりしたぁ、人だったぁ」
若干腰抜かし気味になりながら安堵する柏木。だが、少し妙だ。林から出てきた男。日本ではあまり見慣れないような格好をしている。どこか鎧のような硬そうな見た目の服を着ている、それに腰に携えてるのは、剣だった。ナタや斧ではなく、西洋の騎士が持つような代物。そんな格好の男だが、此方のことを見ると少し驚いた顔をしながらジリジリと近づいてくる。
「あ、あのすみません! ちょっとここが何処かわかりますか」
「……」
「え、ええっと、すみません?」
「カスデンジンポッニテシカシモ」
「は?」
「カイナラカワハデレコ、カウソ、ア」
「え、あ、海外の方でしたか、すみません、ええっと」
柏木がスマホの翻訳アプリを開こうとしたその時、また林から物音が聞こえた。今度は一つではなかった。
「ナタイ。ダリパッヤ。イオ! ゾルイガンジンポッニ」
新しくでてきた3人の男達はいかにもな見た目をしていた。最初の男のように武装しているが、嫌なオーラを放っているのがわかる。この人たちの言葉も古谷達にはわからなかった。だが、明らかに普通じゃない雰囲気を感じとった。そう思った矢先、恐ろしい勢いで3人の男達は此方に襲いかかってきたのである。悲鳴を上げる柏木。だが、その次に悲鳴を上げることになるのは、堂島でも古谷でもなく、襲いかかってきた男の1人だった。
なんと、最初に出てきた鎧の男が鞘に納めてある剣を思いっきり奴の顔面に叩き込んだのである。
「ソク、ャリミクヨ、ダズルヨ。ゾクヒ!」
悶絶する1人を支えながら、男達は出てきた林に消えていった。鎧の男はため息をするように息を整えて、再び此方に目を向けた。1分にも満たない争いだったが、見ていた3人はただただ唖然とし続けていた。鎧の男が口を開く。
「あの、すみません。言葉、わかりますか?」
「え、あ、あ、はい!」
「えと、助けていただいて、ありがと、ございます。
「あはは、いえいえ、お怪我がないようで良かったです」
3人は顔を揃える。鎧の男が守ってくれたおかげで特に怪我はなかった。男は続ける
「いきなりの問いかけになるのですが」
「あっはい」
「皆さんはニッポンというところからいらっしゃいましたか?」
「はい、……え、というか、ここが日本ですよね」
「いいえ、ここはアガンタというところですよ」
3人は顔を揃えた。聞いたことのない国だった。男はまた笑って「困惑するのも仕方ない」と言い。
「皆さんはニッポンからここに、テンセイしてきたんですよ」
「は?」
「ようこそ、お越し下さいました。ニッポンの皆さん。」
和かに言う男はこう続けた。
「お会い出来て光栄です。私達の英雄」
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