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特別な椅子(ちょっと長い、内容は同じ)
両親が死に孤児になった私の元に執事と名乗る人がきた。連れてこられたのは塀の終わりが見えないほど大きなお屋敷。その屋敷の主。大財閥の長だった人が私の祖父だと聞かされる。私が呼ばれたのはお祖父様が亡くなり遺産の後継を決める為だった。
大広間に入ると、立派で綺麗な身なりの親子連れがいた。父親は若いのにシャツの襟元までの長い山羊髭を顎に垂らしている。母親は始終夫の顔色を窺い、子どもは一人きりで入場した私を見て鼻を鳴らし唇を嫌な感じに歪め笑った。他にもでっぷりした体型の中年男女が一組いた。この二人とは一度も目が合わない。私のこと透明人間と思ってるのかな。
そのうち山羊髭男と中年女がキィキィ喧嘩を始める。剣呑な雰囲気を鎮めたのは執事だった。
「旦那様は遺言されました。この家には特別な椅子がある。その椅子を見つけ今日の夜中零時に座り仰た者こそ次の当主に相応しいと」
大人たちは屋敷中の椅子を大広間に集めた。目を皿にしどれがその特別な椅子か見極めようとする。すぐにそれらしい椅子が見つかる。何しろ装飾が他のどれより豪勢だ。時計を気にしながら椅子に向かって尻を突き出し押し合いへし合いする大人たち。男の子は母親に父親と叔父さんの間に押し込められ悲鳴をあげた。私は男の子を大人たちの間から引っ張り出す。酷い馬鹿騒ぎだ。疲れたのと眠いのとで一番手近にある汚くて粗末な木の椅子に腰掛ける。
「時間になりました。当主決定でございます!」執事が私の右手首を掴み天井につけあげた。まさにお伽話。私の座った椅子がお祖父様の「特別な椅子」だった。
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