2人が本棚に入れています
本棚に追加
俺、デートだから帰るわ
「俺、デートだから帰るわ」
久々の飲み会、面子が集まったところで奴はいきなり席を立つ。チラリと流し目を寄越され、気づけば俺も店の外に。
「何でいきなり帰るんだよ!」
「言ったろ。デートだから」
「飲み会断れば良かったじゃん……」
奴は腹が立つほど脚が長い。癪に障るけど。追いつくために小走りになる。追いつくぞ、と足を踏み込んだ瞬間奴が足を止めた。俺は勢いを殺せず奴にぶつかる。ぶつかってきた俺を奴は何なく受け止めた。そのまま逞しい胸に抱き止めらた。顎を捉えられたかと思うと路面店のショーウィンドウを向かされる。店の明かりは落ちていて、街灯の灯りを受けるガラス面は鏡になっていた。俺はポカンと口を開ける。
だって。だってだって! ガラスに映る俺たちはこれ以上ないくらいぴたりと体を密着させていた。体だけじゃなく、唇も。
うわ、嘘だろ。お互い口を開け突き出した舌を絡ませてる。鏡の中の俺の顎を、受け止めきれなかった唾液が垂れていく。
「何だよ、これ!」
「〈あっち〉の世界の俺たちは恋人だ」
「はぁ!」
洋画みたいなキスシーンを演じる自分たちを見せられ、俺の体はどんどん熱くなっていく。
「何の悪戯? プロジェクトマッピング?」
「違う。これは所謂平行世界の俺たち」
「は? 怖っ。何言ってんの?」
「俺は〈こっち〉でも仲良くなりたいと思ってる」
俺の顎を掬い上げる奴の手を振り払うことができない。
「嫌がらないなら、お前も俺と同じ気持ちと理解するが良いか?」
聞いてくる声がやけに平坦だ。やたらと顔面偏差の高い顔が近づいてくる。
あ〜、もう!
奴を見上げる。会うのは卒業以来なのに、そもそもそんなに話したことないのに、どうしてそう強気なんだ!
色々言いたいことはある。けど……俺はこいつを突き放せないまま、抱きしめられている。
最初のコメントを投稿しよう!