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砂の中でもがくような
私、向原 美月は、都内のIT企業で法人営業として働いている。
IT企業といっても大企業案件を中心に受託開発をしており、アプリやウェブサイトのシステム開発で売上を立てている。30人弱の小さな会社だ。
エンジニアやデザイナー中心のこの会社でなぜ法人営業をしているのかと言うと、たまたま「開発だけじゃなくて、サイトに掲載する広告枠の営業も一部手伝ってくれない?」と頼まれたので、数名、営業担当を配置するようになったらしい。
大学卒業後、2年ほどサービス業を経験した私は、法人営業に挑戦してみたいと一念発起し、今の会社に転職してきた。未経験で社会人経験が浅かったのに採用してもらえたことは、今でも感謝している。
ただ、半年ほど前から上司になった田沼さんとの関係については、かなり困っていた。
「向原さん、このお客様に対するメール内容、何なの? これじゃ誤解招くわよ。メール送信する前に必ず私がチェックするから、逐一確認してちょうだい」
「すみません。次は確認取るようにしますね。先方には、お電話入れて補足説明するようにします」
「全く、これだから若い子は困るわ。メールの一本もまともに作れないなんて」
今の会社に転職して3年目だが、田沼さんはいつまでも新人扱いというか、メールを一通送るのにも必ず事前チェックをするし、お客様にテレアポする時はいつも隣のデスクでずっと聞き耳を立てている。
そして終話すると、何かしら一言言ってくるのだ。しんとしたオフィスで田沼さんが私を叱責する声が、大きく響き渡ることもある。
田沼さんは40代前半の女性で、営業歴は長い。抱えている顧客数は少ないが大きな案件も多く、営業としてはかなりの売上を占めている。
多少言動が目立っていても、役員も彼女にはお咎めなしだ。コンプライアンスもへったくれもない。
田沼さんが上司になってから、私は週に1度だけ、派遣ホステスとしての副業を始めた。
以前から銀座の高級クラブという場所に興味があったし、コミュニケーションの勉強になるとも思った。それに、時給3000円というのも魅力的だった。
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