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これまでの一部始終を拓さんに話した。
亮さんの行動が『兄を尊敬している。そして構ってほしい、取られたくない』から来ているのではないか、と話したらとても驚いていた。
「そうか……俺は全然そうだと思ってなかったから、驚いたよ。美月はよく気付いたね」
「初めて亮さんに会った時、すごく見定められているような感じがしたんです。だから気付いたって感じですかね」
「なるほどな。それにしても見定めるって……。美月、嫌な思いさせてごめん」
拓さんが落ち込んだ様子で謝ってきた。
私がこれまで比較されたり優劣をつけられることに敏感になっていたからこそ、それを自分の弟がやったのが嫌なのだろう。
「拓さんは何も悪くありませんよ。ただ、近いうちにぜひ亮さんと話してくださいね」
「あぁ、わかった。あと、なるべく美月は亮と2人っきりで会わないでくれないか? また嫌な思いさせるのも嫌だし、今日も2人きりで会ってるって聞いたらいてもたってもいられなくて……」
「それは、ヤキモチですか?」
「はは、そうだね。美月のこととなると、本当余裕なくなるな」
「拓さん……」
ちょっと耳貸してください、と言って、拓さんの耳に近づく。小声で、彼だけに聞こえるように囁いた。
「大好きです」
伝えた瞬間、拓さんの耳が真っ赤に変わっていく。ふふ、と笑みがこぼれてしまった。
「……ッ! 美月! そんな小悪魔技、どこで覚えた? 俺を翻弄させてどうしたいんだ…」
「ふふ、拓さん可愛いですね!」
……それからというもの、亮さんはこの日の出来事がなかったかのように、私達の住むマンションによく押しかけてくるようになった。
仕事帰りにご飯を食べたいだの、今日は泊まらせろだの、これまでの兄弟の時間を取り戻そうとしているのかな?と、私はあまり深く考えていなかった。
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