歪んだ恋心

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2人でそんな話をしていたの? だから拓さん、最近様子が変だったの……? 「魅力的な美月を、好きにならない方が難しいと思うよ。それに、お前が本気なら俺は正々堂々と向き合う気だった」 拓さんは真っ直ぐと亮さんを見据えたまま、話し続ける。 「周りの機微に敏感で、他人に必要以上に気を遣うお前が、本気で欲しいもののために俺にぶつかってくるか、試すような言い方をした。  それで、亮。……お前は本気か?」 「……まだ、兄さんほど本気かと聞かれると、分からない。最近美月が特別に感じてたし、多分、これが好きなんだろうなって。  でも、兄さんの幸せを奪いたいとは思ってない。さっきの行動は、気持ちに蓋しきれなかった。ごめん」 亮さんの目が泳いでいる様子を見た拓さんは、「ハァ…」とため息をついて掴んでいた手を離した。 拓さんの気持ちも、亮さんの気持ちも、私は何も分かっていなかった。 2人がもっと腹を割って話せたらとか、もっと仲良くなれたらと思っていたのに、むしろ2人の仲を私が拗らせてしまったのだろうか……。 (あぁ、私のせいだ……) その事実に、呆然と立ち尽くしてしまう。 「……美月、今日はもう帰ろう」 「はい……」 「亮、またな」 「……」 拓さんに腕を引っ張られ、マンションに向かう。後ろを少し盗み見ると、亮さんは1人その場で立ち尽くしていた。 その後も腕を引っ張られ、拓さんの歩幅についていけず、足がもつれそうになる。 拓さんはグイグイ攻めるタイプではあるけれど、そこにはいつも私に対する配慮があった。 今日はそれが無い。 配慮と言うか、余裕が無い……。 引っ張る手がひんやりしていて、体の距離は近いのに心の距離がどんどん離れていっているように感じる。 マンションに着き、やっと腕を離してくれた。 「ごめん、腕痛かったよな。大丈夫か?」 「はい……拓さん、本当にごめんなさい。事前に連絡しておいたとはいえ、2人で会ってしまって……」 「いや、美月は亮の気持ちを知らなかったから。とはいえ、ちょっと俺も頭冷やしたい。少し一人にしてもらっても良い?」 「はい……」
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