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前の会社と違って、見て見ぬふりをせず一緒に戦ってくれる人がいる。それがどれだけ有難いことか。拓さんもそうやって、目の前の3人を助けて来たんだろう。
(守ってもらってばかりじゃダメだ。私も、毅然とした態度でいよう)
そう心に決めてオフィスに戻ると、こちらをチラチラと見ている社員が何人かいた。秋田さんはここぞとばかりに、大きな声を出す。
「あ〜〜あ、あんなデマ投稿に惑わされるなんて、馬っ鹿みたい!!さーて仕事、仕事!」
こちらを見ていた社員が、パッとパソコンに目線を移した。
「なぁ、あれやっぱりデマ?」
「確かに、なんか変な感じしたもんな。捨てアカっぽいし」
一課の雰囲気が、少し変わったのが分かった。私を奇異の目で見る人はもういない。こっそり、秋田さんに耳打ちした。
「秋田さん、ありがとうございます」
「ううん、まだ足りないくらいよ。きっとすぐ、皆の興味も薄れるわ」
この日も何とか仕事を乗り越えたが、拓さんをほとんど社内で見かけなかった。
一日クライアント先を回っていたのだろう。やっと見かけたのは、もう仕事を終えて帰る頃だった。
この時、拓さんと一緒にいる人物を見て、何度も自分の目を疑った。
「なんで、果林ちゃんと一緒なの……?」
危うく持っていたバッグを落としそうになってしまった。
遠くを歩く拓さんは、果林ちゃんに腕を掴まれている。今日はもう拓さんも帰るようだけど、そのまま二人でどこかに行くんだろうか?
昨日、果林ちゃんは連絡先を渡すと言っていたし、この一日で一気に進展してしまったのだとしたら……。
「はは……拓さん、もう私のこと、嫌いになっちゃったかな……」
二人がどこかに行くという事実に、目の前が真っ暗になるようだった。
***
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