守りたいもの 〜side拓〜

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「うん、知ってる。兄さんは昔からずっと、人間味があったんだよな。兄さんが『誰と一緒に仕事をするかを大事にしてる』って言ってたのも、今なら理解できる。  受け取る側の俺が歪んでたんだなと思うよ」 亮がタバコに火をつけた。 こいつ、いつからタバコ吸うようになったんだ? 「亮、タバコ吸ってたっけ?」 「うーん、たまに? 別にそんなに吸わなくても大丈夫だけど、たまに吸いたくなるんだよね」 「そうか」 俺は亮のことを知ったつもりでいたが、まだまだ知らないことも多いんだな。 そう思いながら、2杯目のウイスキーに口をつけた。 「あと、俺は亮と働きたく無い訳じゃないんだぞ?」 「……そうなの? あんまり働きたくないのかと思ってたけど」 「いや、違うよ。お前と働けたらすごく面白いと思う。俺にはない感性があるし、お前から学べることも多いだろうなと思うよ。  ただなぁ……M&Aコンサル自体にそこまで興味が持てないんだよなぁ……」 それを聞いて突然、亮がプハッと吹き出した。 「ハハッ!そりゃそうだよなぁ。広告みたいにどんどん新しい価値を生み出していく仕事と、M&Aみたいに買収したり、組織再編するような仕事じゃ、全然違うよな」 「新しい価値を生み出すという点では、M&Aも同じだと思うけどな」 「あぁ。でも、兄さんが働きたいと思う場所に身を置くのが一番だね。そうだ、あと昨日の件はごめん」 亮は美月の件に話を変えた。 「あ、そうだ。亮、今日も美月と二人で会ってたのか? あんまり俺にヤキモチを妬かせないでくれ」 「兄さんは美月のことになると、すぐ妬くもんな〜。昨日の件を謝りたくて、さっきまでマンション近くの公園で話してた。  早々に解散して、美月は前職で世話になった人の家に行くって言ってたよ」
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