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「そうなんですね、広告も色んな手法があるから、全体のプランニングから提案できるのはきっとやり甲斐がありますよね」
「そうだね、俺はこの仕事が凄く好きだよ」
そう言ってお酒を飲む松本さんの横顔が、とてもかっこよくて。今まで一体、何人の女性が恋に落ちてきたんだろう。
その後も、広告業界のことや仕事の話は続いた。松本さんから意見を聞かれれば、自分なりの考えを答えたりもした。
「松本さんは……」
「拓」
「え?」
「ナナさんには、拓って呼んでほしい」
「拓さん…」
「うん、ごめん話の腰を折っちゃった」
「拓さんの破壊力が凄過ぎて、何を話そうとしたか忘れちゃいました」
「あはは、何それ」
拓さんがプッと吹き出した。最初は固い表情だったのに、お酒の力もあってか、かなり表情が柔らかくなっていた。
「ナナさんって、本名? なんでナナって名前なの?」
「はい、本名もナナなんですけど、誕生日が7月7日なんです」
(本名は美月だけど、誕生日が7月7日で源氏名をナナにしたのは本当!)と、心の中でツッコミを入れてしまう。
「そうなんだ。じゃあ、7月7日は誕生日のお祝いをしないとね」
「え、拓さん、お祝いしてくれるんですか? 嬉しい〜!約束ですよ??」
「あぁ、いっぱいボトル開けるよ」
「最高のお客様ですね!」
お互い笑いながら目を合わせる。拓さんとはこのクラブで、この瞬間だけを一緒に楽しむお客様なのに、どうにも一緒にいる空間がくすぐったい。
その後は、休みの日に何をして過ごしているかとか、この前見た映画がどうだったとか、他愛もない話をした。その話の中で、彼女がいないということも判明した。
付き合えるとは1ミリも思っていないけど、彼女がいないという事実に少し嬉しくなった。
打ち解けてくる頃には、つい本音を漏らしてしまう。
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