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その後は急いで事務所に戻り、借りていたドレスから私服のパンツスーツに着替えて、駅まで猛ダッシュだった。
終電まで、もう時間がない。
残業の指示があれば事務所からタクシー代も出るが、そうでなければ終電に間に合わせるしかないのだ。
なんとか銀座線に飛び乗って、ふーっと一息つく。
この時間になると、電車内には泥酔して座り込んでいる人がいたり、吊り革になんとか捕まってコクリコクリと舟を漕いでいる人もいた。
最寄駅に辿り着いて一安心したからか、お腹の虫がぐ〜〜っと鳴いている。
真夜中なのだから、そのまま寝てしまえばいいものの、足はふらふらと灯りのある方へ引き寄せられてしまった。
(やばい、お腹空いた……何か食べないと無理……)
私が入ったのは、夜中でも営業しているチェーンの牛丼店だった。
(そんなに量は食べれないけど、この時間に牛丼って背徳感がある)
販売機でチケットを買い、早速カウンター席に着いて牛丼を待つ。周りを見回すと、女性客は自分ひとりだけだった。
「……いただきますっ」
出来立ての牛丼をあっという間に平らげてしまった。
寝る前に食べて体には負担しかないのだろうが、日中の仕事と合わせて10時間以上働いてヘトヘトなので、多分すぐに寝落ちしてしまうだろう。
(拓さんがこの姿を見たら、幻滅しそうだなぁ……華やかなドレスを脱いだ、私の素顔に)
そんなことを考えながら、牛丼店を後にした。
その後の銀座のシフトでは、恋ではなく他のクラブということもあり、拓さんと会うことは無かった。やはりもう、会うことは無いのだろう。
ーーと思った1ヶ月後に、呆気なく再会を果たしてしまう。
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