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プロローグ
約2ヶ月ぶりに会う松本さんは、今日もすっきりとしたシャープな顔立ちでついつい見惚れてしまう。
私たちは今、オフィス近くのレストランのテラス席で向かい合って座っている。そしてランチのパスタが出てくるのを待っているところだ。
今日松本さんに呼び出された理由は薄々気付いているけれど、何を言われてもしらばっくれることにしようと気合いを入れてきた。
が、松本さんの澄んだ瞳を見ていると、どうにも嘘を隠したりできなそうなのだ。
「向原さん、今日呼ばれた理由、なんとなく気付いてる?」
「そうですね、松本さんがこちらに出向されてまだ1週間くらいですし……業務のことで確認かなと思ってました」
「それもそうなんだけど、それだけじゃないんだよね」
表情はにっこりしているけど、目が笑ってない気がする。なんとなく姿勢を正した。
「今日は何て呼べばいいのかな? 向原さん?それとも、“ナナ“の方かな?」
「えーっと、ナナとは誰のことでしょうか?」
「ふーん、しらばっくれるのか」
「何のことでしょうか?」と言いながら、内心はだらだらと冷や汗をかきながら無理やり笑顔を作る。
予想通り、松本さんは早速核心についてきた。うちの会社は副業禁止だし、ましてや水商売なのでバレては色々と困る。
それに、もし私が「ナナ」だったとして、松本さんは何が目的なんだろう?
「君と出会った後、もう一度恋に行ったんだ。そこでママから、君が派遣のホステスであることを聞いたよ。この会社にいて本当に驚いた」
「……」
「俺は純粋に、君の“素”の部分にも興味を持ったんだよね」
「そう、なんですね。でも、“素”の私は松本さんが思っているような人間では無いと思いますよ?」
「……とにかく、もう遠慮せずにいかせてもらうよ」
「ふぇ!?」
そう言って松本さんは私の空いた手を取り、真剣な眼差しをこちらに向けてきた。
松本さんにまた会えた嬉しさの反面、“ナナ”と“美月”のギャップに落胆されるのではないかという不安が入り混じって、素直に喜べない自分がいた。
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