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ニコニコしている松本さんが、ポケットからスマホを取り出す。何かを操作して、QRコードをこちらに見せた。
「これ、俺のID。改めて登録してくれる?」
「はい…わかりました。というか松本さん、結構グイグイいきますね?」
「はは、そうでもしないと、また逃げられちゃうからな」
「別に逃げた訳じゃ無いんですよ? 出会った場所が場所だったので。今もちょっと揶揄われてるのかなと思ってます」
「それは心外だな」
次はムスッとした。松本さん、仕事中はクールなのに、今日はころころ表情が変わって面白い。
心を許してもらえてるようで、嬉しくなってしまった。
「ふふ」
「なぜ笑う。俺は怒ってるんだぞ、真面目に口説いてるのに」
「いえ、表情がころころ変わって面白いなと……あははっ」
「こら、こんなに誰かに翻弄されるのは初めてなんだ。俺もどうしたら良いか分からないんだよ」
「私は松本さんが思っているような人間では無いかもしれませんが……それでも良ければ、お互いについてもう少し知るのはどうでしょう?」
「あぁ、じゃあ早速だが、今夜は空いてるか?」
「はい、金曜はもう銀座に行く必要もないので。大丈夫です」
「じゃあ19時に駅前集合で」
「わかりました」
結局、ほとんど仕事の話をせずにランチミーティングは終わってしまった。
最近自分に自信を無くしていたけれど、松本さんと過ごす時間は凝り固まった心がほぐれていくような感じがした。
まさか、松本さんと話している様子を、田沼さんと桜井さんから遠目に見られていたとは知る由も無かったーー。
***
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