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「美月さん、素敵なお名前ね。こんなに余裕のない松本さん、初めて見ましたよ。
グイグイ攻めるって、裏を返すと案外余裕の無さだったりしますから。前向きに考えてあげてくださいね」
女将さんがにっこりしながら、日本酒を注いでくれた。
拓さん、余裕が無いの?
遊びじゃなくて、本気で口説いてる?
ちらっと拓さんの方を見ると、頭を抱えて顔を真っ赤にして俯いていた。
(え、なにこれ、可愛すぎやしませんか…!?)
拓さんの真っ赤な横顔を見ていたら、こちらまで顔が熱くなってきた。女将さんは相変わらずニコニコしている。
刺身盛りの後は、山菜の天ぷらや真鯛といくらの土鍋も堪能した。
すっかりお腹も満たされて、ほろ酔い気分になっていた。
お手洗いに行っている合間に拓さんはお会計を済ませていて、自分の分は払うと申し出たけど「いや、俺が誘ったから」と頑なに払わせてくれなかった。
女将さんにも挨拶をして、お店を出ると夜9時を過ぎたところだった。
歩き始めた所に小さな段差があり、「おぉっと」とよろめく。すかさず体を支えてくれた拓さんに、そのまま引くように手をぎゅっと握られてしまった。
「酔っ払ってて危なっかしいから、このまま行くぞ」
「は、はい」
繋いだ手は温かくて、心地良い体温だった。私たちはそのまま、拓さん行きつけのバーに向かう。
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