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「それくらいのことで引いたりしないよ。むしろ一人で飲食店に入れないより好ましく思うし、俺だって疲れて何もしたくない日はある。完璧な人間なんていないさ」
(おぉ……逆にポイントが上がるとは思ってなかった…)
「美月が何が好きなのかとか、大事にしていることとか、もっと色々知りたい。良ければ俺のことも、もっと知って欲しい」
真剣な眼差しがこちらに向けられ、お互いの視線がぶつかる。
私の髪をさらりと、拓さんの長い指が絡め取った。
優しく髪を梳くように触っているけれど、視線はまるで「逃がさない」とでも言っているかのようで。
心臓の音がドクンドクンと高鳴って、耳の真横から聞こえてきそうだった。拓さんの指先と息遣いが近くに感じられて、今にものぼせてしまいそう……。
止まった時を動かしたのは、拓さんの方だった。
「俺のこと、嫌い?」
「いえ、嫌いではないです」
「じゃあ、彼女になってくれるって聞いたら?」
「それは、まだ出会って間もないので……もう少しお互いを知る時間が欲しいです」
「そうか…」
そんなことを言っているが、本当は自分に自信が無いだけなのだ。何も考えずに、拓さんの胸に飛び込んでいけたら良いのに。
これまでの会話を反芻してぼーっとしてしまい、二杯目に何を飲んだのか、拓さんと何を話したのかも記憶が朧げだった。
お会計を済ませお店を出て、二人で歩き出した時だ。
「美月」
「はい」
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