ナナと美月 〜side拓〜

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『昼間はIT系の企業で、広告枠の法人営業をしてるんです。でも、ターゲティング広告というより、バナーを掲載したりする純広告に近くて…』 彼女が話していた内容を思い出す。この手の仕事も星の数ほどある。この情報だけで、会社を特定するのはかなり難しい。 ふと、あの日今井社長と話していた「企業買収の件」を思い出していた。なんでも、とある企業の社長から買い取ってくれないかと半年ほど前に相談があり、無事契約も完了したらしい。 ただ、一般社員への発表はまだで、出来るだけ社員の混乱や反発を抑えながら、早く組織統合をしたいと言っていた。 「会社ホームページでも見てみるか……」 なんとなく、ナナが言っていた会社と重なる部分があるなと思い、スマホを操作し始めた。 「は……嘘だろ?」 ホームページをスクロールしていると、社員が談笑している写真にナナとそっくりな子がいるのだ。少し化粧は薄いが、この背丈や目元、表情はナナだった。 「本当に奇跡みたいだな……。今回の組織統合の件、なんとかして噛ませてもらうか」 ナナがうちの会社に来てからアプローチするでも良いかもしれないが、その間に彼氏でも出来ようものなら絶対に後悔する。善は急げだ。 俺は晴々とした気持ちで、クラブ(れん)を後にした。 *** その後は、今井社長への根回しや課長代理への引き継ぎなど、短期間で一気に進めていった。その合間に、出向先のIT企業に関する経営状況や、社員情報も確認していった。 彼女の名前は「向原美月」ということが分かった。やはり、ナナは本名ではなかった。 「美月か、早く会いたいな……」
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