ナナと美月 〜side拓〜

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出向初日となり、社員の前で挨拶することになった。挨拶の直前、すぐに美月を見つけた。嬉しくて表情が緩みそうになるが、なんとか耐える……。 挨拶が終わって「松本さん〜!」と現れた田沼さんとか言う女性には、軽い挨拶で済ませ、すぐに各部署への挨拶回りに行った。 ああいう女性は、男女でかなり態度が違うタイプだろうなと予想した。部下とのやり取りも注視した方が良いだろう。 美月とは敢えて「初めまして」で挨拶をしておいた。先ほどの田沼さんが上司だし、馴れ馴れしいと受け取られて美月に警戒されても困る。 出だしは慎重に出来たはずだが、いざ彼女と2人きりの時間を作れた時は全く慎重になれなかったーー。 *** 「それで、どこまでが本当なんだ?」 「じゃあ、週末1人で過ごすことが多いというのは?」 「…だから、彼氏がいるかどうかは?」 「これ、俺のID。改めて登録してくれる?」 「あぁ、じゃあ早速だが、今夜は空いてるか?」 今思い出しても、自分の余裕の無さに恥ずかしさが込み上げてくる……。これでは「オラオラ課長」じゃないか。 何としてもこの印象を挽回したい……と、早々に行きつけの小料理屋に電話をして、なんとか今夜2席確保できないかお願いした。そして行きつけのバーにも、念のため電話を入れておいた。 小料理屋では女将に茶化されるし、別れ際も離れがたくて、つい我慢出来ず美月にキスしてしまった。 こんなにダメダメだったのか、俺……。 美月がタクシーを降りた後、はぁぁぁと深いため息が出てしまった。来週こそは紳士な態度を心掛けよう、と心に誓った。 ***
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