ナナと美月 〜side拓〜

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早速、桜井さんが日々どのような仕事を行なっているか確認し、田沼さんや美月、他の広告事業部の社員とどのように連携を取っているのかヒアリングしていく。 「今のチームに対して、どのように思っていますか? やりやすい、やりにくいなどあれば教えてください」 「そうですね、皆さん外回りに出ている時間も多いので、なかなか全員揃うことが無いのですが……良くも悪くも、チームプレーと言うより個人プレーの印象ですね」 (誰のことも悪く言わない、模範解答のような答えだな。もう少し突っ込んで聞くか) 「チームの中でも、田沼さんの向原さんに対する当たりが強いように感じるのですが、それに関してはどう思いますか?」 「向原さんも最近新規で受注を伸ばしてますし、よく頑張っていると思います。田沼さんに関しては、向原さんに対してもっと仕事ができるようになってほしい、というゆえの指導だと思いました」 「なるほど、桜井さんの考えは分かりました。ありがとうございます。  これは私個人の考えですが……愛情だと思ってしたことが、相手にとっては(やいば)でしか無い、と言うこともあると思います。  アドプラン社の私がとやかく言うのもおかしいかもしれませんが、どうか、桜井さんは向原さんのメンタルのフォローをして頂けませんか?」 「……はい、分かりました。気をつけて見るようにします」 「ありがとうございます。引き続き宜しくお願いします」 ひとまず、今日の分の面談は終わった。明日は美月を含め、他の広告事業部の社員との面談もある。 たかが事業提携にしては、ここまで突っ込んだ1on1をするなんておかしい、と皆薄々気づいているだろう。 企業買収の件はいつでも発表できる状態だったが、来月半ばにしようと考えていた。早く田沼さんと美月を離れさせたいが、もう少しの辛抱だ。 ……その後、俺はこの時の判断を後悔することになる。もっと早く動いていれば、美月があんなことにならずに済んだのにーー。
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