体の異変と、上司の怒り

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体の異変と、上司の怒り

最近、田沼さんの機嫌がさらに悪化している。 今日はなるべく地雷を踏まずに早々に帰りたいと思っていたが、突然、地雷が爆発した。 何がきっかけかわからないが、本気でキレると人は静かになるらしい。 「……向原さん、この企画書、何? 手抜いて作った訳?」 「いえ、手を抜いた訳では無いんですが」 「あのさぁ、もう仕事やる気ないなら、帰っていいわよ」 「え……」 「やる気が無いなら、帰りなさいよ」 もう、いっそ帰ってやろうかなと思った。でも、他にも仕事は残っているし、こんな時間に帰るわけにもいかない。 指摘の仕方が抽象的で、何を求められているのか分からない。でも、きっとまた教えてくれない。八方塞がりだった。 『この人の前で泣いたら負けだ』と思って歯を食いしばってやってきたが、とうとう、何かが崩れ落ちていくような音がした。 私は社会人になって初めて、静かに泣きながら仕事を続けた。 後で南さんと「ガス抜き会」をしたいけれど、もうそんな元気も無くなっていた。その後どうやって自宅アパートに戻ったのか、覚えていない。 この日は拓さんに連絡する元気もなかった。 次の日の朝、自宅から駅に向かう途中で、自分の目から涙がぼとぼと溢れていることに気がついた。 そういえばここ数日、手首がものすごく痒くて、どんどん皮が剥けて真っ赤になっている。 「おはようございます」 「おはよー」 「向原さん、おはよう」 田沼さんとも挨拶をしたが、昨日のことなんて何も無かったかのようだ。というか、今日は何故か機嫌が良い。 業務の合間に、何度か手首に保湿クリームを塗っていると、田沼さんに話しかけられた。 「あら、向原さんどうしたの? 手荒れ?」 「それが、最近ものすごく手首が痒くて、皮が剥けちゃってるんですよね……何が理由か分からないんですけど」
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