砂の中でもがくような

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「うん、ボイスレコーダーもありだと思う。本当うちの会社って、コンプライアンスも何もないよね。  人事の斉藤さんも転職しちゃって、今不在だし。そもそも斉藤さんは採用担当っていう感じで、パワハラの相談しても大して機能しなさそうだけど」 「本当、中小企業あるあるなんですかね。パワハラ相談窓口の設置が義務化されても、本当にちゃんと機能してる会社ってどれくらいあるんですかね?」 「田沼さんって、絶対に自分がパワハラしてる認識はないよね」 「はい、だと思います。仕事ができない若者を育成してる、という感じでしょうね。むしろ感謝しなさいと思ってそうです」 「逆に若者の成長を阻んでるわ……あ、たこ焼きが冷めて(しぼ)んじゃいそう! 早く食べましょう!」 そう言って、ふっくらとしたたこ焼きを二人でつつき始める。ソースの艶や青のりの香りに、さらに食欲をそそられた。 「そういえば、銀座はまだ週に1回行ってるの?」 「はい、一番混む金曜の夜だけ。とはいえ、やっぱり日中フルタイムで働いた後に行くと、疲れますね。  終電で帰った後は、布団にばたんって倒れて寝ちゃってます。もう泥になったみたいに、床にへばりついてる感じです」 「あはは、それはそうだよね。日中も新規のテレアポしたり、外回りもあるし、本当無理しないでよね? 何かあったらいつでも頼ってね」 「うぅ、ありがとうございます。それが、そろそろ辞めようと思ってて、さっきここに来る前に事務所に連絡した所でした」 「あらそうなの? どうして?」 「体力的なこととか、色々理由はあるのですが……一番は、本業に集中してもう少し結果を出して、早めに転職したいなと思ってます」
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