砂の中でもがくような

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「そっか……うんうん、そうだよね。うちの会社だとどうしても、エンジニア優位で営業は評価されにくいもんね。違う会社に方向転換するのは、良い判断だと思う」 そう言って、南さんはネギとマヨネーズがたっぷり乗ったたこ焼きを頬張る。 「……もうすぐホステスを辞めるってなったら、意外と銀座で良い出会いがあったりして?」 「いやぁ、それは無いんじゃないですか? お客さんもああいう場では、ホステスに対して一線を引いてると思うんですよね。  本命と出会うなら、もっと普通の場所が良いっていう人が多そうだし。それに、銀座に来るお客さんって年齢層が結構高いんですよね。この間も某大企業の常務が来てたり……って、あんまり詳しいことは話せないのですが」 「そっかぁ…若い人って全く来ないの?」 「たまーに、偉い方に連れられて来る人もいますね。でも本当に珍しいかも。  この前来た20代後半くらいの男性、ホステスに囲まれてもう顔真っ赤になってました。可愛いですよね!」 「ふふ、初々しいね。若い人なのか、年配の人なのかはさておいて、いつどこで良縁に恵まれるか分からないから。報告楽しみにしてるね!」 「年配の人はなるべく避けたいですが……はい、まずは残りのシフト、心残りなくやり切ります!」 うんうん、と頷く南さん。ハイボールをぐいっと飲んで、二人とも二杯目に突入だ。週の半ばだからサクッと終わらせよう、と言ったのに、結局まだお開きにはならない。 その後はデザインチームに関する南さんの「ガス抜き」が始まり、思い思いに喋り倒してから、やっと解散となった。 帰り道、私は南さんに言われたことを思い返していた。 (ホステスの仕事で「男女の出会い」を意識したことは、全く無いなぁ。バーで知り合って結婚した人は周りに1組いたけど……それもお客さん同士だし、ホステスとって言うのはあんまり聞かないかも。  あり得るのかもしれないけど、まぁ、私はないかな) そんな風に結論付けて、急いで帰宅した。 まさか、南さんの言う通り、本当に「男女の出会い」が待っているなんて、この時は微塵も思っていなかった。
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